2013.11.22 00:02 更新
2013.11.21 取材
普段はお目にかかれない“別世界”へと供給される、特殊なマシンの数々。そういった存在に触れることができるのも、組込み総合技術展「Embedded Technology 2013(ET2013)」の醍醐味だ。中でも防衛・航空宇宙分野向けに出荷される“軍事用PC”が面白い。通常では考えられない過酷な環境に対応するタフネスと、何よりプレミアムな価格設定には驚かされること間違いなし。
防衛・航空宇宙分野向けのいわゆる“軍事用PC”は、可動部品の搭載を避ける意味合いから、ほぼすべてのモデルがヒートシンク型筐体によるパッシブクーリングを採用している。また、過酷な環境における動作を想定し、広範な動作温度域に対応するのも大きな特徴だ。アメリカ国防総省の軍事調達基準「MIL規格」に準拠するモデルも多く、コネクタ部分を含め、防水・防塵・防振などあらゆるダメージに耐える処置が施されている。
また、主に航空機のコクピットなどに搭載されることを想定。換装を容易にするため、CPUやストレージ、各種インターフェイスはモジュール式で内部に接続される。
MIL規格準拠のThermis製「Nano-ATR」。手乗りサイズといっていい大きさながら、すさまじい厚みのヒートシンク筐体はかなりの重量感がある |
イノテック株式会社のブースでは、手のひらにも乗るThemis Computer(本社:アメリカ)製の小型モデル「Nano-ATR」を展示中。-40~71℃の温度拡張に対応するほか、「MIL-STD-810G」と「MIL-STD-461F」の軍事調達規格に準拠する。PCI-Express接続のメインボードに「VITA-74」規格のI/Oモジュールを接続する仕様で、モジュールは4スロット分が実装可能だ。CPUはIntel Atom N455(1.66GHz/TDP6.5W)が搭載されている。
ちなみに極太な接続ケーブルはモジュール構成に応じて結線が変わる特注仕様のため、実はケーブルが本体以上に高価という逆転現象が起きている。基本構成ではPC本体が40万円ほどに対しケーブルは約60万円と、システム全体の価格では最低でも100万円程度が見込まれる。なお、構成は契約内容に応じてかなり細かいカスタマイズが可能だ。
換装容易なモジュール式を採用し、構成は搭載するモジュールによって変わる。モジュールの信号に応じて結線が変わるため、ここに繋がるケーブルは本体より高価というから驚きだ |
すぐ横には「Nano-ATR」に対応するイーサネットボックス「Nano-Switch」が並べられていた。ちなみに周囲に並ぶ円形コネクタこそLAN用のコネクタだったりする。価格はPCとほぼ同じというから、これまた驚き |
こちらは軍事規格準拠ではないものの、やはり堅牢仕様な車載用モデル「BC50M」。主に鉄道車両の底部などに搭載される |
丸文株式会社のブースでは、同社取り扱いのEmerson Electric(本社:アメリカ)製「VPX-3000」を見ることができる。Core i7とQM77 Expressチップセットを組み合わせるハイパフォーマンスモデルで、温度拡張は-40~85℃と幅広い。「VITA-46」および「VITA-65」規格のモジュールに対応し、システム一式の価格は基本構成で100万円からといったところ。
台形上の筐体の左右にヒートシンクが並ぶEmerson Electric製の「VPX-3000」。先ほどよりは大柄ながら、PC自体をモジュールのように組み込む仕様のため重さは5kg程度だという |
Core i7とQM77 Expressチップを組み合わせたハイパフォーマンスモデル。なお、背面のインターフェイスはあくまで展示用で、出荷時には軍事仕様のコネクタに換装されるらしい |
組込み専用PCをメインで展示しているHPCシステムズ株式会社のブース(V-024)。顧客のニーズに応じて世界中から最適なモデルと取り寄せたという多数のラインナップが並ぶ。それぞれの製品名(仮名)はなかなかユニークだ |
鉄道に搭載される「トレインPC」はやや大型。ハリネズミのようなヒートシンクをかぶったモデルは-20~60℃の幅広い温度拡張に対応している |
こちらはCOMポートを大量に搭載したモデルだ。COMポート搭載は業務用モデルとして必須の装備といえる。なお、HDMIがズラリと並んだ珍しいモデルも並んでいた |
文: GDM編集部 絵踏 一
Embedded Technology 2013: http://www2.jasa.or.jp/et/ET2013/