2016.06.10 00:01 更新
2016.06.06 取材
「COMPUTEX TAIPEI 2016」最後のエルミタ的レポートは、RASCOM Computerdistribution(本社:オーストリア)が展開するNoctuaブースから、ただいま鋭意研究中となるエアフローのおはなし。Noctuaの頭脳とも言うべき人物、Jakob Dellinger氏による「空気力学」は、取材班が途中で寝てしまうほど難解であった。
コーポレーションカラーであるブラウンで統一され、毎年ほぼ同じブースデザインで臨むNoctua。馴染みのスペースには、馴染みの顔であるJakob Dellinger氏が我々を待ち構えていた。
Jakob氏からの連絡は、いつも唐突で簡潔だ。短文で要件のみを伝え、気が済むと数ヶ月もの間、平気で連絡が途絶える。物腰は柔らかいものの、数学的に物事を考え、的確に対応する。それは「処理」や「対処」という表現が当てはまる。彼ほど頭の切れる業界関係者を、僕はまだ知らない。
そんなJakob氏が現在夢中になっているのは、Noctuaブースレポート第1弾でお届けしたCPUクーラーではなく「空気力学」であった。ここからはJakob氏が現在推し進める、ヒートシンクにおけるエアフローの最適化について「説明された通り説明」しよう。
まずはじめの「Offset split-fin design」は、ヒートシンクを構成するメイン(Primary)の放熱フィンの風の通り道に、敢えてサブ(Secondary)の放熱フィンを据える事で境界層(boundary layer)を作り出す。これにより、放熱フィン間を流れる風のスピードが増すため、適度な風量でもヒートシンクを冷却する環境ができるという考え方だ。
Jakob氏の実験によると、最適な風量は1,500rpm近辺であり、従来のヒートシンクに比べ、0.8℃まで温度を下げる事ができているという。これを応用すれば、少ない風量=静音状態で、従来よりも冷えるCPUクーラーができる。
「Oblique groove patterns」は、放熱フィンにGroove(溝)と呼ばれる微細な溝を設ける事で、空気渦を意図的に発生させる。平面を流れていた風に対し、溝を設ける事で減圧の降下が起こり、落ちかけた風のスピードが”持ち直す”。論理的にうまく行けば、1℃前後の温度低下が見込めるそうだ。
「Flow duct scoops」は、放熱フィンにScoopと呼ばれるダクトを設ける事で、意図的に発生させる二次エアフローとの境界層を作り出す。これもヒートシンク間を流れる風量の低下を防ぐと共に、スピード上昇も見込めるそうだ。
「Protrusions」は、放熱フィンにProtrusions(突起)を設け、境界層を破壊。発生する乱流により、エアフローの取り込みスピードが向上する考え方だ。なおJakob氏の経験によると、放熱フィンは基本的に平面である方が、冷却能力は高くなるという。この考え方を基準に、「溝を設けるのか」「突起を設けるのか」といった、なかば従来の常識を覆す実験が繰り返されているという。
ようやく難しい話から解放され、次に説明を始めたのが「Copper-aluminium composite fins」と名付けられた、新しいヒートシンクだった。見かけはよくある2つのブロックに別れたヒートシンクだが、名前にあるようにアルミニウムと銅の素材を使った複合素材モデルだという。
CPUクーラーには、熱が溜まりやすい場所、熱伝導の速度を向上させたい部分が存在する。そこで放熱フィンの素材をポイント別に変更する事で、良好な熱分布を作り上げているという。なお両者ははんだ付けにより接合、その精度により熱伝導効率が変わる事は言うまでもない。精密な工作技術は、Noctuaが最も得意とするところだ。
と言うわけで、プレゼンは終了。長かったエルミタの「COMPUTEX TAIPEI 2016」レポートは、ここNoctuaブースで終わる。来年もたくさんの話題がお届けできますように。そしてJakobさん、また会いましょう。
文: GDM編集部 松枝 清顕
RASCOM Computerdistribution(Noctua): http://www.noctua.at/