2017.10.26 22:01 更新
2017.10.26 取材
AMD(本社:アメリカ)は2017年10月某日、メディア向け新製品発表会を開催。世界最速を謳うモバイルノートPC向け新型APU「Ryzen Mobile」シリーズを発表した。その気になる機能と搭載製品を早速紹介していこう。
新製品の発表に先立ち、冒頭挨拶のため登壇したのがCosumer Sales APJ Director Peter Chambers氏。これまでもx86初の1GHzプロセッサ(2,000年のAthlon)や、初のデュアルコアプロセッサ(2004年のAthlon 64 X2)など、革新的な製品を数々投入してきたAMD。その中でも今年3月にリリースしたデスクトップ向けRyzenシリーズ、そしてその上位機種であるRyzen Threadripperシリーズは、その優れたパフォーマンスから大きな成功を収め、AMDの復活を強く印象づける製品になったと2017年のここまでを総括した。
冒頭挨拶のため登壇したPeter Chambers氏。AMDのこれまでの歩みを振り返りつつ、2017年のここまでを総括 |
この成功をさらに確実なものにするため、AMDではノートPC向けAPUプロセッサ「Ryzen Mobile」シリーズを開発。ターゲットにしている市場は、近年急成長を遂げている“コンパーチブルタイプ”や“スリム・軽量タイプ”に加え、これまでこのクラスでは難しかった“ゲーミング”まで幅広く網羅。また同社では日本市場を非常に重要なものと考えており、これまで以上にリソースを割り振り、同市場にフィットした製品を提供できるよう努力していきたいとのこと。
3月のRyzen 7を皮切りに、新製品を投入するごとに大きな話題を呼んだRyzenシリーズ。2017年はAMDにとって大きな転換点となる1年だ | 昨年に比べ出荷数が40%以上増加するなど“コンパーチブルタイプ”のノートPC市場は特に成長が著しい |
CPUとGPUの両方のノウハウを持つAMD。最新世代の2つのアーキテクチャを組み合わせることで、飛躍的に性能がアップしたAPUを実現した |
スリムノートPC向け最強プロセッサを目指して開発が進められたという「Ryzen Mobile」。CPUコアにはもちろんデスクトップ版Ryzenと同じ「Zen」アーキテクチャを採用する。ノートPCで特に重要なIPCは先代アーキテクチャから52%も向上しており、クロックや消費電力を抑えつつ優れたパフォーマンスを発揮。さらに競合製品に比べて面積あたりの効率も約10%高いことから、ノートPCの小型・高性能化がより簡単に行えるようになった。
IPCの改善に加え、小型化もし易い「Zen」アーキテクチャは、スリムノートPCにはまさに最適とのこと |
またCPUだけでなく、GPUのノウハウを持つAMD。内蔵GPUには「Polaris」アーキテクチャから大幅に電力効率が向上した最新世代の「Vega」アーキテクチャを採用。2つの最新アーキテクチャを組み合わせることで、「Ryzen Mobile」はTDP15Wという省電力プロセッサにも関わらず、デスクトップPCに匹敵するCPU性能と、最新3Dゲームにも対応するグラフィックス性能を手に入れることができたワケだ。
これまでNVIDIAに溝を開けられていたハイエンド帯でも十分戦うことができる、「Vega」アーキテクチャを組み合わせることができたのも「Ryzen Mobile」の大きなメリット |
ちなみに製品の解説セッションを担当したClient Graphics Business CTO and Corporate FellowのJoe Macri氏によれば、「Ryzen Mobile」は、CPU性能50%アップ、GPU性能50%アップ、消費電力50%ダウンという達成目標を設定して開発をスタート。このハードルは非常に高く、開発当初は達成が難しいと考えていたが、最終的にはCPU性能200%、GPU性能128%、消費電力58%ダウンを達成。AMDのエンジニアの優秀さをアピールするとともに、ユーザーも必ず満足してもらえるだろうと自信を覗かせた。
CPU性能、GPU性能、消費電力とも当初の目標(画像左)を遥かに上回るスペックを達成 |
「Ryzen Mobile」の数値目標を設定し、開発にも参加したJoe Macri氏。正直、目標を達成するのは難しいと考えていたが、自社のエンジニアの優秀さを改めて認識したとのこと。また次回はより高い目標を設定したいと話し、笑いが起こる一幕も |
当初リリースされるラインナップは、上位モデル「Ryzen Mobile 7 2700U」(4コア/8スレッド/10CU/定格2.20GHz/TC時3.80GHz)と、「Ryzen Mobile 5 2500U」(4コア/8スレッド/8CU/定格2.00GHz/TC時3.60GHz)の2モデルで、2018年の第1四半期頃には下位モデルの「Ryzen Mobile 3」とビジネス向けの「Ryzen Mobile Pro」が登場する予定だ。
デスクトップ向けからアップデートされた箇所も多い「Ryzen Mobile」。実質第2世代となることから、型番は1,000番台から2,000番台へと変更された |
次に内部設計と新機能について簡単に紹介していこう。CPU/GPUの各種コアやメモリコントローラ、各種エンジンなど、計6つのユニットを内蔵する「Ryzen Mobile」。それぞれのユニットは、Ryzenシリーズで初めて導入された「Infinity Fabric」で接続され、各種ユニット間のデータ転送に加え、ユニットの制御や電力の最適化などを行う仕組み。
「Ryzen Mobile」の6つのユニットは「Infinity Fabric」と呼ばれる独自バスで接続 |
さらに内蔵する各種センサーを使いリアルタイムに内部処理を最適化する「SenseMI Technology」にも対応。搭載機能はデスクトップ版と同じ5種類だが、「Presicion Boost」はより細かい制御ができる「Precision Boost 2」に、「XFR」もモバイル向けに最適化した「Mobile XFR」へとそれぞれ変更されている。
5つの主要機能で構成される「SenseMI Technology」にも対応。デスクトップ版との主な違いは「Presicion Boost 2」と「Mobile XFR」の2つ |
「Presicion Boost 2」は、メイニーコアの欠点であるシングルスレッド処理性能を引き上げるため、実行スレッドが少ない場合にクロックを自動的に引き上げる機能。デスクトップ版に搭載される「Presicion Boost」では、稼働中のスレッド数に応じて動作クロックが切り替わるため、3スレッド以上の処理が行われると、最高クロックが一気に低下していた。一方「Presicion Boost 2」では、消費電力や各コアの負荷、発熱などを考慮して徐々に最高クロックを調整するため、特に短時間の処理や負荷の軽い処理を並列で行う場合に高クロック状態を維持し続けることができるようになる。
「Presicion Boost2」では、3スレッド以上の処理を行う際の動作クロックの低下を抑えることができる |
またデスクトップ版の「XFR」が、ブーストクロック以上にクロックを引き上げるものだったのに対して、「Mobile XFR」は、プロセッサの冷却条件が有効な場合に、最高クロック状態をより長時間維持し続ける機能へと変更された。これにより、同じプロセッサを使っていてもノートPCの設計次第で性能が異なる可能性があり、「Ryzen Mobile」ではメーカー各社の冷却チューニングがこれまで以上に重要になる。
「Mobile XFR」機能を有効にすることで、CPUの性能は最大23%向上できるという |
その他、電力効率を高めるため、より細かな電流調整ができる「Synergistic Power Rail Sharing」や、コアごとに周波数と電圧を制御する「Per-core Frequency and Voltage」、CPU/GPUコアのアイドル時の消費電力を抑える「Enhanced Gate States」などの機能を搭載する。
モバイル向けプロセッサらしく、省電力向けの機能も多数実装されている |
これらの機能により、直接競合となるIntelの最新プロセッサCore i7-8550Uとの比較では、CPU性能は約1.4倍、グラフィックス性能は約2.6倍へと向上。またバッテリー駆動時間も従来APUから最大2倍へと大幅に改善されている。
マルチスレッド性能はデスクトップ版のハイエンドと比較してもまったく遜色ない |
「Vega」アーキテクチャのGPUを内蔵する「Ryzen Mobile」。別途グラフィックスチップを搭載しなくても多くの最新3Dゲームが快適に動作する |
これまでAMD製ノートPCプロセッサが苦手としていたバッテリー駆動時間も大幅に延長された |
最後に、2017年第4四半期中にグローバル市場向け発売が開始される「Ryzen Mobile」搭載ノートPCを紹介していこう。なおいずれも現時点で国内投入は未定とのこと。
厚さ13.6mmのスリムデザインが特徴のLenovo「Ideapad 720S」 | 15インチフルHD液晶を採用するAcer「Swift 3」 |
360°回転ヒンジ液晶を採用する2-in-1モデルHP「Envy X360」 | ノートPCでは初となる8コア/16スレッド対応の「ROG GL702」もスライドで紹介 |
Ryzenシリーズのロードマップと共に、ノートPCの紹介をしてくれたClient Product Mangement WW DirectorのDavid McAfee氏 |
文: エルミタージュ秋葉原編集部 池西 樹
AMD: http://www.amd.com/