2019.03.10 00:01 更新
2019.03.10 取材
PCやスマホ三昧の僕らに潤いの1冊・・・。旅する書評家・北村有さんが"これぞ”と思った本を紹介してくれます。週末くらいは液晶画面から離れて、ゆっくり読書はいかがでしょうか。
突然ですが、以下に当てはまる方は手を挙げてください。
ほんの一例ですが、「ちょっと当てはまるかも・・・」と思ったあなたは「発達障害」、もしくはその傾向がある「グレーゾーン」に該当するかもしれません。
そう聞いて、あなたは不快に思われたでしょうか。
姫野桂さんの書かれた『発達障害グレーゾーン』を読んで、「もしかしたら私はグレーゾーンかもしれない」と思ったときに感じたもの。それは確かな、勇気と安堵でした。
発達障害グレーゾーン(扶桑社) 著者:姫野 桂 2018年12月27日発売(183ページ) 定価:820円+税 判型/仕様:新書判 ISBN: 978-4594081300 |
ご挨拶が遅れました、旅する書評家を名乗っています、北村と申します。
この原稿を書いている現在は、札幌から鎌倉へ居を移していますが、生憎の空模様。しとしと降る細い雨を窓越しに見ながら、せっせとタイプしています。
旅する書評家、ただいま鎌倉に滞在中 |
パッとしないお天気だからか、「人の抱える生きづらさ」について考えていました。
きっと、まったく生きづらさを感じずにこれまで過ごしてきた側のほうが、現代では少数派なのではないでしょうか。そう思えるくらいに、おのおのが感じる生きづらさ、息苦しさは普遍的なものになっている気がします。
『発達障害グレーゾーン』を読んで、ますますその思いが強くなりました。
冒頭にも挙げたように、マルチタスクが苦手だったり、人との会話に極端にストレスを感じたり、言葉にするとささやかだけれど負荷の高い「生きづらさ」。些細だからこそ共有もしづらく、これまで表に出ることも少なかった「発達障害」や「グレーゾーン」という言葉。
人間はみんな、グレーゾーンなのかもしれません。
私自身、大人数があつまるパーティや、複数人での会議が苦手です。人の名前と顔を一致させることも不得手なので、会社員時代は苦労しました。
これは、私だけが感じているつらさなのか。みんなは難なくできることが、どうして私にはできないのか。
本書には、「確かな診断名が欲しくて診療を受けに行く人もいる」といったことも書かれていました。そうか、診断名さえあれば、この生きづらさの答えが出る。きっとグレーゾーンの人たちはみんな、「白」か「黒」かを知りたいのと同時に、「グレーならグレーである決定的な何かが欲しい」と思っているに違いない、と感じました。
これは、「甘え」や「逃げ」とは違います。
私たちがみんなそれぞれ「グレー」である、グレーに近い部分を持っていると自覚して過ごすだけでも、はるかに生きやすさが向上するんです。『発達障害グレーゾーン』は、そんな根源的で大切なことを教えてくれました。
本書は、「何らかの生きづらさを抱えているけれども、診療を受けても発達障害だという診断が下りない」、限りなく発達障害に近いグレーゾーンにあたる人たちの認知を目的として書かれた1冊です。
著者である姫野桂さんも発達障害当事者。グレーゾーンの人たちが集まる茶話会「ぐれ会!」に自ら参加したレポートをはじめ、関係者へのインタビュー、グレーゾーンに効くライフハックなど、まさに痒い場所へも手が届く仕様になっています。
昨今、あらゆるメディアのおかげで、「発達障害」という言葉やその実態に関しては理解が広がってきました。しかし、本書にも書かれている通り、「グレーゾーン」である人たちに対しては、「診断が出ていない以上、ただの言い訳や甘えだ」と決めつけられる風潮があり、堂々と苦しさを主張できない現状があるのも事実。
『発達障害グレーゾーン』のおかげで、私のように救われる人もいるでしょう。元々「グレーゾーン」という概念さえ知らなかった人には、理解を深めるきっかけにもなるでしょう。そして発達障害当事者、グレーゾーンである自覚がすでにあった人たちにとっても、同じ境遇で必死に生きている仲間の存在を感じることで、生涯手放せない1冊になるでしょう。
少し大げさかもしれませんが、たくさんの人を救い、そしてこれからも救っていく新書として長く生き残る作品になると確信しています。
前述したように、本書の巻末には発達障害当事者やグレーゾーンの人たちが生き抜いていくための、様々なライフハックが掲載されています。
仕事からプライベートに至るまで、出来る限りミスを防ぐための試行錯誤。「こうすれば自分は大丈夫」「こう準備しておけば失敗しない」、自分の性質を観察し理解を深めることで、確実に生きやすさへの一歩を進めることができます。
自分のことを知り、より良く生きようとすること。
その助けとなるであろう1冊を紹介しました。少しでも気になった方は、ぜひ手にとってみてください。そして、少しでも息がしやすくなる明日が来ることを、願っています。
北村有(きたむら・ゆう) 国内一人旅と読書が趣味なフリーライター・旅する書評家。 ブログ:https://kitayu.net Twitter:https://twitter.com/yuu_uu_ |
文: フリーライター・旅する書評家 北村 有