2019.05.03 11:00 更新
2019.05.03 取材
PCやスマホ三昧の僕らに潤いの1冊・・・。旅する書評家・北村有さんが"これぞ”と思った本を紹介してくれます。週末くらいは液晶画面から離れて、ゆっくり読書はいかがでしょうか。
季節が不安定な時期ですが、皆さま如何お過ごしでしょうか?
桜が似合う暖かな季節になってきたかと思いきや、雨や霙が舞う日が急に挟まれたり・・・。まだまだ、無防備に春を満喫するのは早いかもしれないですね。
突然ですが、「ストレングスファインダー」という性格分析ツールをご存知の方はいらっしゃいますでしょうか?
Web上で質問に答えることで(※有料)、自分のおおよその性格や思考の癖を認識し、普段の生活や仕事に活かしていこうというものです。
一時期、このツールが流行したときに私もその波に乗り、上位に「収集心」という要素がランクインしていました。これは、実際に物をコレクションする気質と、情報など目に見えないものを集める気質とに分かれることもあるのだとか。
それを知ったとき、ああ、私は言葉を集めるのが趣味であり、もはやフェチの領域に入っているなと気づいたんです。
今回、紹介する書籍「恋と仕事の51の名言」についても、著者であるはあちゅうさんがこれまでの日々の中でコツコツとためてきた、恋や仕事に効く大切な言葉・金言を集めた「言葉博物館」となっています。
普通っぽいのになぜか心に響いて離れない恋と仕事51の名言 (集英社) 著者:はあちゅう 2019年3月26日発売(176ページ) 定価:1,200円+税 判型/仕様:四六判 ISBN:978-4087880168 |
会社での会議や、上司・同期・後輩との他愛ないおしゃべり、気の置けない友人との食事やパートナーとのデートだったり、はたまた、美容師さんやショップ店員さんとの無難な世間話など、私たちは日々驚くほど、様々な立場の人と言葉を交わしながら生きています。
せっかく同じ時間を共有し、お互いに思っていることを交換し合うのだから、あってもなくてもどちらでもよかったような時間にはしたくない。そんな思いと姿勢で臨むはあちゅうさんだからこそ、日常の中でともすると忘れ去られてしまうような言葉たちを、ここまでコレクションすることができたのだと思います。
私自身も、本を読むことが好きで、文章や言葉を目で拾い追うのが好きで、心にグッとくるものに出会えばせっせとコレクションを続けてきた身ですが、こと「人との会話」においてはアンテナを張り切ることができていませんでした。
あなたは、ふと誰かが発したなんでもない言葉を、大事に取っておいた経験はありますか?
どんなに必要のない会議でも、参加したくない飲み会の席だとしても、自分の気持ちしだいでそこは貴重な情報収集の場になる。この本を読み、はあちゅうさん自身が拾い集めてきた言葉の数々に触れながら、1秒1秒を大切に生きることは(たとえそれが自分の人生であったとしても)、誰かにとっての価値にもなりえるんだと改めて実感することができました。
人は、1人では生きられないとよく言われます。
周りの人の支えがあってこその自分だ、という意味ですが、自分1人の考え方・思考回路だけではだんだんと凝り固まっていき、いつか鈍く錆びついて動きが悪くなってしまうことを危惧した言葉でもあると、最近とくに感じるようになりました。
1人では、考えることも、できることにも限りがあります。
だからこそ、その大事な出合いを、自分の注意力不足で見逃してしまわないようにしっかりとアンテナを立てて記憶に残すようにしています。
自分にしか生きられない、唯一無二で濃い人生は、日々触れ合う人たちの思考や言葉を分けてもらうことで醸成されるのかもしれません。
自分が思うこと、感じることを大切に尊重するのと同時に、人の意見や思いにも同等の思いを馳せる。互いに混ざり合うことで化学反応が起こり、新たな気付きとなるのだと思います。それがまた違った考えに繋がったり、新しい人との出会いに行き着いたり、最高に面白い仕事のきっかけとなったり。
思えば人生は、その繰り返しです。
自ら提供し、与えてもらい、ケーキを焼く材料を混ぜ合わせるイメージでさっくりと融合させ、生まれ出る価値をさらに磨き上げていく。
言葉にすると高尚ですし大げさかもしれませんが、その小さな第一歩となるのが言葉のコレクションです。他の人にとっては何でもない言葉だったとしても、大切にあたためることで価値が芽生える土壌となる。そんな思いで人との会話を楽しむことができたら、毎日がつまらなく流れていくなんてことは、言えないし思えないのではないでしょうか。
今回、あえて本書内に紹介されている各名言に関しては触れずにおきました。どんな名言がコレクションされているのか、それはぜひ、あなた自身の目で確かめてみてください。あなたの言葉博物館にも、素敵なコレクションが増えますように。
北村有(きたむら・ゆう) 国内一人旅と読書が趣味なフリーライター・旅する書評家。 ブログ:https://kitayu.net Twitter:https://twitter.com/yuu_uu_ |
文: フリーライター・旅する書評家 北村 有