2019.06.22 00:00 更新
2019.06.22 取材
PCやスマホ三昧の僕らに潤いの1冊・・・。旅する書評家・北村有さんが"これぞ”と思った本を紹介してくれます。週末くらいは液晶画面から離れて、ゆっくり読書はいかがでしょうか。
しかし、まっさらな人間の頭とは、それほどすばらしいものでしょうか?
今週もお目にかかれて嬉しいです。旅する書評家を名乗っています、北村と申します。
単刀直入に、今回は水野学さんが書かれた「アイデアの接着剤」という本の、冒頭の一節を引用させていただきました。
アイデアの接着剤 (朝日文庫) 著者:水野 学 2014年4月8日発売(240ページ) 定価:648円(税込) 判型/仕様:単行本 ISBN:978-4022617897 |
著者である水野学さんの職業は、「アートディレクター」「クリエイティブディレクター」です。ご本人の言葉を借りていうと、「デザインによって、この世をもっとよくすること」が仕事だそう。
水野さんは過去にも「アウトプットのスイッチ」「センスは知識からはじまる」などの著書を発表されています。総じて書かれているのは、センスは持って生まれたものではなく、後天的に仕入れる知識・情報によっていくらでも鍛えられるものなのだ、ということ。
この言葉に、ある種の天啓のようなものを感じて、食い入るように読みました。
例に漏れず、私も思い込んでいました。「何の材料もなしに、まっさらな自分の頭にだけ頼るのが尊い」と。
次から次へとベストセラーを生む作家、独自の視点で物事を切りひらくライターやエッセイスト、見る者全員に息を呑ませる写真家、世間の評価とは別次元に君臨する画家、芸術家、デザイナー……。
クリエイターと称される人たちの手で生み出される成果物は、芸術としてこの世に認知されます。そして、目にした者たちは総じてこう言うのです。「類まれなるセンスが感じられる」と。
「センス」という、この言葉が、私は昔から苦手でした。
苦手というよりも、一種の恐ろしさというか、畏敬の念さえ持っていたように思います。何をどう頑張っても手に入れられないもの。この世に生まれた瞬間から、その総量や質が決められているもの。「センスがない」「センスが貧困だ」といわれたら、人格そのものまで否定されているような、這い上がりようのない絶望的な気持ちになるもの。
そして、大半の人が諦めるのだと思います。センスがないから仕方ない。天才のようにはいかない。あちら側の人たちは、元から豊富なセンスに恵まれていたんだ。そのような理屈で。
しかし、「アイデアの接着剤」著者である水野さんは、その考え方に異を唱えるところから本書をスタートさせています。
だからこそ、アイデアを生むより宝探しをしたほうが、より素晴らしいものが出来上がると、僕は信じています。
センスは、持って生まれたものではない。後からいくらでも鍛えることができる。そして、そのポイントになるのは「知識の量」だと説かれているのです。
既存の知識を掘り出すこと=宝探し。そして、その宝と宝を繋ぎ合わせるのが、「アイデアの接着剤」。そう考えると、今からでも、自分で自分のセンスを鍛えることができるという可能性が、ひらけてくるのがわかります。
一応、と枕詞につけるのは適切ではありませんが、ライターとして仕事をしています。基本的には、こうやって文章を書くことで生計を立てている現在。クリエイティブな仕事のイメージが、確かに強いのかもしれません。
ただ、落ち着いて日々、自分のやっていることを振り返ってみると、「まっさらな頭」で「何もないところ」からアイデアや企画を生み出すことなんて、滅多にありません。まさに、水野さんが本書で仰っているように、毎日が宝探しのようなもの。
「何もないところ」なんて、そもそもないのです。
この世の中にはすでにたくさんの事象があって、優れた生産物があって、豊かな心にしてくれる制作物があって、そして、それらすべては既存の土壌から掘り出された何かと何かを組み合わせてできている。
だとしたら、ヒントは「好奇心」と「熱量」にあるのだと思います。
あなたは、今、何に興味がわいていますか?
1日たっぷりと時間をあげると言われたら、まず、何がしたいですか?
近場に日帰り旅行に行きたい、美味しいものを食べに出かけたい、話題のスポットを訪れたいというアウトドア派な方もいるでしょう。はたまた、自宅でゆっくり家族と過ごしたい、本や雑誌をめくってインプットを楽しみたい、音楽を聴いたり映画を観たりする方も多いかもしれませんね。
そのすべてが、「種」です。
好奇心と熱量が赴く先が、すべて「ヒント」になりえます。
そこから得たものと何かを組み合わせることで、まだ誰も知らない価値を生み出すことができるかもしれないのです。
そう考えると、「センス」は「組み合わせ力」ともいえるかもしれませんね。「アイデアの接着剤」を読んで、ぜひあなたなりのセンスの磨き方を知ってください。
北村有(きたむら・ゆう) 国内一人旅と読書が趣味なフリーライター・旅する書評家。 ブログ:https://kitayu.net Twitter:https://twitter.com/yuu_uu_ |
文: フリーライター・旅する書評家 北村 有