2024.03.30 10:00 更新
2024.03.30 取材
秋葉原の電気街と同じ歴史を刻んできた、秋葉原の古さと新しさが同居する東京ラジオデパートを廻る「東京ラジオデパート探訪」。第3回は前回に引き続き2階に店舗を構えるヴィンテージ真空管のお店「真空管 長谷川」にお邪魔します。
前身のキョードーはかつてラジオデパート内だけで複数の店舗を構えていたこともあり、古強者のアキバウォーカーなら聞き覚えがある人もいるでしょうか。「キョードーはラジオデパートの1年生から参加していたんですよ」と語るのは、先代からお店を引き継いだご店主の長谷川さん。時代の移り変わりとともに取り扱いの主力が半導体などに変わりつつ、先代が半ば趣味の延長でかつて手がけていた真空管のお店を復活させたのが、現在の店舗に繋がっています。
長谷川さんご自身も、キョードー時代から数えて30年以上のキャリアをもつ真空管の達人。販売しているのは、現在は製造されていないヴィンテージ真空管で、店内には“真空管の王様”ことWestern ElectricやRCAといったアメリカ製、Telefunkenやシーメンスなどのヨーロッパ製、東芝や松下など日本製を含め、国内外のヴィンテージ管が所狭しと並んでいます。
中には100年前に製造された、30万円以上もするような銘球もチラホラ。年代物の真空管には、当時の技術の粋を集めて作られたコスト度外視の球も多く、基本的に古い物ほど品質が良いのだとか。「よくお客さんには、ウチは部品屋じゃなく骨董品屋なんですよ、と言ってるんです(笑)」とは長谷川さんの談。
そしてそんな“骨董品”な真空管の数々ですが、お店で扱っているのはほとんどが新品。または新品と遜色がないと長谷川さんが鑑定した、極上の中古品ばかりです。数十年から100年前の製品が、これだけ未使用の(またはそれに近い)状態で並んでいて、なおかつ問題なく動作するというのはすごいですね。
放送用の機材に使われていたという巨大な真空管も |
ちなみに現在の真空管の用途としては、オーディオ向けがほとんどを占めます。客層は真空管アンプを自作するような玄人から、市販されているアンプの真空管を差し替える目的のライト層までと幅広いですが、意外にもその割合は半々くらいだとか。ライト層も目的さえしっかり把握していれば、臆せず通えるので安心です。
なお、真空管は門外漢に違いを見分けるのは難しいですが、ダイオードの役目を果たす整流管、微弱な入力を増幅する電圧増幅管(プリ管)、メインのパワー管と、大きく分けて3種。初心者の場合は、調整不要で差し替えられる電圧増幅管からチャレンジするのがオススメだそうです。
店外にある棚は、手頃な価格で買えるお値打ち品コーナー。探しものがある人は、まずここをチェックするべし |
ここで長谷川さんにイチオシの球を聞いてみたところ、最初に教えてもらったのが「EL34(6CA7)」です。古い真空管は出力の低さから現行のアンプを鳴らせない物もある中で、この球は十分なパワーがあり扱いやすさがピカイチなのだとか。迫力のある音が楽しめる一方で繊細さも表現できる、バランスの良さも魅力。
それでいて、人気モデルながらビックリするような値段ではなく、比較的手頃なところもオススメな理由とのこと。
続いて価格度外視の個人的なイチオシとして挙げてもらったWestern Electric「205D」は、なんとほぼ100年前の1928年に製造された黎明期の真空管。もとは通信の増幅用として作られた球らしいですが、当時でも最高の技術で作られた高級品で、いわく「真空管マニアにとって終着点のような球」とのこと。
ただし古い時期の真空管のため出力はかなり低く、この球に合うアンプや独特のスピーカーを用意する必要があるなど、扱いの難しさも最高レベルです。聴ける音楽もある程度限定されることから、まさに究極の愛好家のための真空管ですね。
「このお店で過去イチ売れた物は?」という質問に応えて長谷川さんが取り出したのは、Western Electric「310A」という人気の球。かつてキョードー時代にアメリカから直接大量に仕入れる機会があったということですが、なんと当時は店頭に山積みにして売っていたというから驚きです。
先代が「いっぱいあるから買ってよ」とお客さんに声がけしていたのを長谷川さんも覚えているとのこと。しかも当時のお値段は、現在とは比べ物にならないほどの破格値。その頃は今ほど真空管が貴重ではなかったという事情があってのことですが、現在とのギャップを考えると投げ売りに感じるくらいの価格でした。実際かなりの数が売れて、さらに(値段は変わりましたが)現在でも人気の球として売れ続けているそうです。
なお“謎の売れ筋”というのは基本的にないそうですが、マニアによって魅力が発掘されて、突然売れ始める“出世管”のような球はちょくちょく出現するとのこと。その代表格がWestern Electric「396A」という球で、元は(WE製ながら)ほとんど注目されていないモデルだったとか。それがAmazonなどで買える真空管アンプに使えるということから、需要が急増してヒット球の仲間入りに。
ちなみに様々な真空管で遊び尽くしたマニアになると、定番の球では面白くないということで、知られていない球の魅力を発掘しようとアレコレ試す人も結構いるそうです。そうした球は安く手に入るという事情もあるわけですが、その中のアタリが雑誌などで取り上げられて人気になり、注目度と値段が上がっていく・・・という、ある種のトレンドが真空管の世界にもあるわけですね。
文: 編集部 絵踏 一