2024.10.20 00:00 更新
2024.10.20 取材
秋葉原の電気街と同じ歴史を刻んできた、秋葉原の古さと新しさが同居する東京ラジオデパートを廻る「東京ラジオデパート探訪」。第9回は、2階に店舗を構えるオーディオ向け電子部品の専門店「海神無線」にお邪魔します。
自作オーディオマニアが集う「海神無線」の創業は1951年で、これは東京ラジオデパートが開店した翌年のこと。もっともそれ以前は神田須田町でお店をやっていたそうなので、余裕で70年以上続く老舗店ということになります。当時はラジオなど無線関連の部品をメインに扱っており、コイルや真空管、トランスなどがお店に並んでいたとか。
ご店主の久保田さんは2代目で、ご自身も45年以上のキャリアを誇る超ベテラン。現在の同店は、オーディオ向け部品の専門店としてオーディオマニアの間で知られており、特に抵抗とコンデンサの品揃えは膨大です。在庫数は実に2万点以上に及ぶそうですが、それらのほとんどは実際にオーディオ向けに設計されたものだったり、オーディオ向け用途での優れた実績をもつ部品揃い。アンプなどのオーディオ機器を自作する人にとっては、まさに垂涎のお店と言えます。
ちなみに抵抗やコンデンサは、オーディオに適性のある部品とそうでないものとでは、音に劇的な違いを生むことは知られている通り。ただし元からオーディオ向けの部品があったわけではなく、低ノイズな点がオーディオ用途に向いていた医療機器向けの抵抗がマニアに注目されたことがキッカケだったとか。
抵抗は高精度かつノイズの少ない低歪みのものがオーディオ向けに好まれていますが、久保田さんいわく「基本的に磁性体を使っていないものの方がいい音を出してくれる」とのこと。なお、数十円から数百円の部品が多い中で、衛星など航空宇宙分野で使われていたものに至っては1つで3,000円以上するものもあるというから、“沼の深さ”に驚かされます。
航空宇宙分野で使われていたというビシェイ社製の金属抵抗も在庫している |
コンデンサはオーディオ向け製品を初めて手がけたことで知られている、ニチコン製が特に人気。材料の違いで音が変わってくることから、オーディオ向けコンデンサはメーカーごとに様々なノウハウがあるのだとか。お客さんからの評判や使用実績の声を受けて取り扱いを始めたものも多いそうで、ラインナップの中には産業用途に製造されたものもチラホラ。
なお、すでにニチコンはオーディオ向けコンデンサの製造終了をアナウンスしていることから、店頭でも完売の札が目立つようになってきました。アナログオーディオ向けの部品は現在は生産終了になっているものも多く、そうした部品を探している人には、聞けば代替の同等品を案内してくれるそうです。
バックヤードの在庫棚には、店頭に並べきれていない部品もかなり存在している |
おそらく「過去イチ売れた物」であろうという部品は、名物である抵抗の中でも特に人気というシンコー製の音響用金属被膜抵抗「TAF」シリーズ。もとは医療機器向けに作られた「TAJ」をオーディオ向けに最適化した抵抗だそうで、なんと先代のご店主がメーカーに特別にリクエストして作ってもらった製品なんだとか。
当時はまだオーディオ向け部品という概念がなかったこともあり、オーダーした際は仕様の説明にだいぶ苦労したそうです。ピンとこない説明では断られるだろうということで、オーディオに向いた特性になるよう歪みが小さくなるような仕様で注文することで理解してもらったとのこと。ただしこのシリーズもすでに生産を終了していることから、今後は代替品を探すしかなくなるかもしれません。
そして“謎の売れ筋”として、思いがけず売れまくった思い出を語ってもらったのがオムロンのリレー用ソケット「PL-08」です。10個仕入れようとして誤って10箱注文してしまい、途方にくれてしまったことがあったとか。現在ならXで悲鳴をあげて拡散したいところですが、なぜかそのまま購入が相次ぎたちまち完売してしまいます。
実は真空管のソケットとしても使える仕様であり、なおかつ接触の安定性が高いラックスタイプであったところがオーディオマニアに好感されたというカラクリ。それ以来、定番品として長く売れることになったそうです。
文: 編集部 絵踏 一
海神無線: https://kaijin-musen.jp/web_shop/