エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.13
2009.07.28 更新
文:GDM編集部
まずは下のエアフローの流れを表した画像を見て頂きたい。「HAF 922」にCPUクーラー「V8」、電源ユニット「UCP 1100W」を組み込み、やや上目線から見た状態である。
青の矢印はクリーンなエアー、赤の矢印は熱源を通過した、または排熱に関わる風の流れを表している。実際に組み込む前、またはケース購入を検討している段階でも、容易にこのエアフローは想像できるだろう。さらに言えば、現在流行となるケースのエアフローレイアウトはほぼこれ通りと言って良いだろうと思う。また限られた容積の中で、非常に理想的な状況が作り上げられているように思える。
高エアフローが肝となる「HAF 922」のエアフロー“想像図”。自作経験が少しでもあるユーザーであれば、容易に想像できるものだが、さて実際にはケース内でどのようにこれが作用しているのだろうか |
確かに現時点想像するに、これ以上に“よさそうな”エアフローレイアウトは想像しにくいワケだが、さて一体どのように筐体内部で各冷却ファンの風が作用しているのだろうか。疑いをもって見れば、理想的に見えているだけで、実は想像通りのエアフローデザインは実現されていないのではないだろうか。
というわけで、ここでは冷却ファンが搭載される前後箇所に重点を置き、簡易的な風速計を用い、数字で風の流れを検証してみようと思う。
今回使用した風速計は、主にスポーツやレジャー等で使用する、どこでも手に入るタイプのものを用意した。これはいわゆる取引証明目的では使用ができない風速計で、あくまで計測箇所の風量の違いを知るためだけの物である。数値は0.0m/sec~計測が可能で、本体内蔵されているプロペラが回転し、その速度を測ろうというものだ。その意図をご理解頂いた上で、数値は参考にして頂きたい。
なお先にお断りをしておくと、デフォルトの状態をベースにしているため、オプションのボトムファンは非搭載とし、さらに“自己完結エアフロー”となる電源ユニット、およびグラフィックカードのファンは今回除外とした。またCPUクーラー「V8」はエアフロー方向をより明確にさせるため、3pin接続による最高回転での稼働での計測としている。
簡易風速計を用意し、エアフローを数字でチェックしてみる。計測はサイドパネルを外した状態で行っているため、実際の稼働時との相違は存在する。しかしながら今回は各エアフロー箇所の状態をモニターする事が主な目的であり、それ以上の精度は必要としない事を前提にテストを進めている事を予めお断りしておく。また計測は出来る限り風の入口・出口直近の箇所での計測とした。よって各々の目安として参考にして頂ければと思う。 ちなみにこの風速計を使い、部屋の扇風機を計測したところ、「弱」で2.0m/sec、「中」で3.1m/sec、「強」で4.0m/secという結果となっている。※いずれも扇風機から5cmの距離の計測値 |
簡易計測計を用いての風量計測、まずはフロント吸気ファンから。
ボトム部オプションファンを除き、唯一ケース内部に外気を取り込む入り口となるフロント200mmファンは、RedLED搭載のスケルトンタイプが標準となっている。スペックはトップファンと同じ、大口径で緩やかな回転数にて大きなエアフローを生み出す事がその狙いとされている。
さらにケース内エアフローの取り込み口だけでなく、直後にレイアウトされる最大5台搭載のハードディスク冷却にもその大きな役割を担う。
では早速その風量を見てみることにしよう。なお計測ポイントはフロント吸気部(フロントパネルを外した状態での計測)とハードディスク搭載時を想定し、ハードディスク側面左末端の2箇所計測とした。
計測箇所 | 風量 | 計測箇所 | 風量 |
200mmファン吸気部 | 0.8m/sec | 200mmファン排気部 (HDD側面左末端部) |
1.1m/sec |
結果を見ると、吸気部で0.8m/sec、排気部で1.1m/secとなった。いずれも5回計測での平均値としている。後に同じスペックの200mmファンを搭載するトップ部排気ファンの詳細計測結果をご紹介するが、比較として先にこちらの結果を記すと、排気で2.0m/secというスコアが出ている。トップ部の計測位置とは若干の距離の差があるため、完全に同列には出来ないまでも、約倍近い風量低下が出ている所は見逃せない。
ちなみに今回のフロント200mmファンの計測では、敢えてハードディスクは非搭載の状態である。つまりハードディスクの物理的障害が無い状態でのスコアとなるため、5台すべて搭載させた場合はこれ以下の数値になる可能性があるわけだ。
同スペックであるはずのトップ部ファンと倍近い差が出てしまった理由、これはハードディスクマウンタ部に大きく依存しているのである。
下の画像を見て頂くとよく解るのだが、最大5台搭載のマウンタ部は大きくスリットが設けられており、通気性を向上させる工夫がなされている。これは特に珍しいものではないが、このスリット以外の鉄板部分が大きなエアフローの障害となり、風量を大きく低下させていたのだ。
これを回避するには、通気性も良好な上、その形状から強度が落ちないとされているハニカム構造(蜂の巣状の穴)を取るという方法が思い浮かぶ。しかしいくら強度が落ちにくいとされつつも、スリットが設けられた鉄板とではやはり差があり、さらにこの鉄板はハードディスクをマウントするだけでなく、ケースのトップからボトムに渡る構造上重要な“大黒柱的”役割を果たし、上からの力や左右の歪みに対してなくてはならない構成パーツとなっている。
どこかマイナスなイメージに聞こえるかもしれないが、それでもハードディスクに外気をあてる役割はきちんと果たされており、このファンが無ければハードディスクの発熱により、ケース内部の温度上昇は容易に想像が付くというものだ。(当然の事ながらハードディスクの寿命を縮める結果さえ想像できる)さらに最大搭載数の5台ともなれば、大きな熱源になってしまうだろう。
この結果から解ったことは、フロント吸気ファンはハードディスク自体の発熱を低下させる事に特化しており、これによりケース内部の温度上昇を抑制する事を可能としているのであって、外気をケース全体に送り込むというイメージとは少々違うという事だ。ただし誤解を招く可能性があるので補足すると、まったくの効果が無いという事ではなく、過度な期待は禁物であるというところだろうか。