エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.141
2012.05.09 更新
文:GDM編集部 松枝 清顕
近年のCooler Masterといえば、PCケースのヒット作に恵まれている印象が強い。フルアルミPCケース「ATC-100」シリーズからスタートし、 「Centurion」シリーズ、「CM Stacker」シリーズ、「Praetorian」シリーズ、「CM 690」シリーズ、「HAF」シリーズなど、自作ファンなら誰もがこれらモデル名を思い浮かべる事ができるだろう。そんな印象に残るPCケースを積極的に リリースするCooler Masterは、創立20周年を迎えた。奇しくもその節目というタイミングで投入されたのが今回の主役「COSMOS II」だ。
過去の「COSMOS」シリーズを紐解くと、初代「COSMOS」は2007年8月に登場。それまでのフラッグシップモデル「CM Stacker」に代わる期待の新作は、明確なコンセプトと完成度の高いデザインにより、3万円超えの売価ながら飛ぶように売れる大ヒット作となった。その後、ブラックカラーモデル「COSMOS Black Edition」や、エアフロー向上が図られた「COSMOS S」等、バリエーションモデルが登場し、新型「COSMOS II」に至るまで、多くの自作ファンが所有することになる。
COSMOS II
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Available Color | ミッドナイトブラック |
Material | 外装:アルミニウム、合成素材、金属メッシュ 内装:スチール合金、合成素材、ゴム |
Dimension | W344×H704×D664mm |
Weight | 約22kg |
M/B Type | ExtendedATX、XL-ATX ATX、microATX、SSI EEB、SSI CEB |
5.25″ Drive Bay | 3 |
3.5″ Drive Bay | シャドウ:11(上段x5、下段x6) スロットイン(X-dock):2 (3.5インチSATAストレージをスロットインで使用できるスロット) |
2.5″ Drive Bay | 11(3.5インチシャドーベイと共用) |
I/O Panel | USB 3.0×2 USB 2.0×4 eSATA 6Gb/sx1 ヘッドホンx1 マイクx1 |
Expansion Slots | 10+1(+1は縦配置のスロット) |
Cooling System | 前部:200mmファン(700rpm/19dBA/ブルーLED)×1 (140mmファンx1または120mmファンx1に換装可能) 後部:140mmファン(1,200rpm/19dBA)×1 上部:120mmファン(1,200rpm/17dBA)×1 (200mmファン×1または140mmファン×2または120mmファン×3に換装可能) 左側面:120mmファン×2(オプション) 3.5インチシャドーベイ:上段:120mmファン×1(オプション)、下段:120mmファン(1,200rpm/17dBA)×2 |
Power Supply | なし(EPS12V、ATX電源に対応) |
Maximum Compatibility | CPUクーラーの高さ:190mmまで ビデオカードの長さ:385mmまで |
「COSMOS II」発売開始当初、多くのギミックはもとより、これまでの常識を打ち破る巨大なサイズも大きな話題となった。それを表すエピソードとして、通常の宅配便 では難色を示す業者が出たり、店頭持ち帰りが極めて困難である事から、送料無料を謳う店舗が多数あった事をご存じの人も多いだろう。では実際にどれほど “巨大”なのか?
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モデル名
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幅
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奥行き
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高さ
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重量
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COSMOS II |
344mm
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664mm
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704mm
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22kg
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初代COSMOS |
266mm
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628mm
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598mm
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16.9kg
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CM 690 II Plus |
214.5mm
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528.8mm
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496mm
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9.19kg
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※Rosewill Blackhawk-ULTRA |
240mm
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660mm
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635mm
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16.6kg
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「COSMOS II」の公称サイズはW344×D664×H704mm。以前検証を行った“スーパーフルタワー”を謳うRosewill「Blackhawk-ULTRA」と比べても、奥行きこそほぼ同等ながら、幅で104mm、高さで69mmそれぞれ大きい。さらに重量も圧巻で、ミドルタワーPCケースの定番、「CM 690 II Plus」の9.19kgの倍以上となる22kgに達している。6歳児の平均体重程度と言えば分かりやすいだろう。これほどの規格外PCケースは、これまでにあまり記憶がない。
ここからはCooler Masterから借り受けた「COSMOS II」実機による細部のチェックを行ってみたい。新型「COSMOS II」は、従来モデル同様、トップおよびボトム部に特徴的なバーを装着。大型PCケースだけに移動を考慮したトップハンドルと、ヘビー級の重量を支えるボ トムスタンドで構成され、機能面だけでなく誰もが一目で「COSMOS」と判別できる最大のアイデンティティにもなっている。
筐体素材は上下バー同様に外装部はアルミニウム製。シャーシ部こそスチール製だが、外装アルミニウムは見た目の美しさだけでなく、大型PCケースの重量軽減にも一役買っているわけだ。なおボディカラーはミッドナイトブラックとなり、初代「COSMOS」のシルバーより精悍なイメージが印象的だ。
ちなみに筆者は過去、初代「COSMOS」を愛用していたが、「COSMOS II」本体をパッケージから取り出しただけで、格段に剛性が高められていることを感じることができた。シャーシ部はもとより、外装パネルも重厚な作りで、 お世辞抜きにこれほどまでに完成度の高いPCケースは過去記憶にない。
「COSMOS II」は、ギミック満載のPCケースだけに、そのひとつひとつをじっくりと紹介していこう。まず外観上、最大の特徴ともいえるのが、可動式アルミニウム製カバーだ。
オープンベイを隠すカバーはスライド式で、カバーとフロントパネルは磁石で密着している。そしてカバー上部の隙間から指で下方向に軽く押すことで、カバーはゆっくりと下降していく。
“高級感と実用性”を両立させたというスライドカバー表面はブラックアルマイト加工が施されたアルミニウム製。これまで同様の機構を備えたPCケースは存在しているが、ここまで完成度の高いモデルは記憶にない。
カバーにテンションをかけると、ゆっくりとスライド下降していく。なお閉じる動作はさすがに手動式 |
トップ部フロント側にはドライブベイ部を隠すスライドカバーと同じく、アルミニウム素材で作られたスイッチカバーも装備されている。
「COSMOS II」クラスのPCケースなら、床置きでの使用が想定されるため、操作性を考慮すれば自ずと電源スイッチの類はトップレイアウトになるワケだ。
サイドパネル面積が広くなると、メンテナンス性は極端に悪くなる。さらに部材としても重くなり、工作精度の悪いPCケースになるとはめ込みがしにくい。そのうえ、金属同士が擦れ合う独特な“サクっ”とした感覚と、削り落ちた金属粉でなんともイヤな気分にさせられる。
その点「COSMOS II」は、懸念する全てを排除させた、新機軸ともいえる斬新なサイドパネル機構を用意してきた。
通常サイドパネルは、シャーシ側に設けられたスリットにサイドパネル側のツメを引っ掛け、リア部の折り返しを利用してネジ固定する。また少々凝ったもの を例に挙げると、CORSAIR Obsidianシリーズ「650D」や同Graphiteシリーズ「CC600」のように、サイドパネル上部にレバーを設け、PCケース上方向に持ち上 げるように自然な体勢で着脱できるものもある。これもよくできた部類だが、「COSMOS II」はさらにその上をいく開閉機構で、リア部のサイドパネルロックレバーをスライドさせ、固定を解除するだけでドアを開くようにサイドパネルが可動する。
“ここまでやるのか”と唸らせるフロント側を蝶番にしたドア式開閉機構は実によくできており、「COSMOS II」最大の外観的象徴となるギミックだ。
サイドパネル側のピンは上下各2つ。合計4個のピンをヒンジ部の穴にはめ込む事で固定されている |
トップカバーおよび両サイドの枠部はプラスチック製だけに、スチールに比べてデザインの自由度は高い。「COSMOS II」はリア部に限らず角部はすべて丸みを帯びたデザインで統一され、大型サーバー向けPCケースのように無骨な印象はない。またリア上部には水冷ホース 用の穴が3口装備され、いずれもゴムブッシュ(Line buckle)が装着されている。
ちなみに「COSMOS II」は水冷PC構築用のベースPCケースとして非常に人気が高い。水冷の冷却能力を左右するのはラジエーターだが、十分な搭載スペースが確保されている だけに、注目される理由はうなずける。なお水冷ユニットとの親和性については後ほど解説しよう。
次にトップ部をチェックしてみたい。ここには「COSMOS」シリーズの特徴であるトップハンドルが2本装備され、デザイン性だけでなく、組み込めばスーパーヘビーな重量級PCを移動する際、文字通りハンドルの役割をも果たす。
トップハンドルは後方にアーチを描く曲げ加工が施され、PCケース全体に丸みを帯びた印象を持たせる効果もある。さらにトップパネル部はプラスチック製だけに、これらを保護するバンパーのような役割をも果たすワケだ。
プラスチック製のトップカバーは着脱が可能。リアのハンドスクリュー1本で固定され、通気孔には防塵フィルタが装着されていた |
トップハンドルの直径は実測値で約20mm。シャーシへの取り付けは初代「COSMOS」よりも格段に剛性が高く感じられる。その秘密はトップパネルを外す事であらわになる“梁”の存在。経年変化によるシャーシの歪みを防止するだけでなく、トップハンドルの付け根にかかるストレスを分散させる補強の役割を果たしている。これによりトップハンドルはびくともしない |
ギミック満載の「COSMOS II」でも、さすがにボトム部に特筆すべき仕掛けはない。両サイドのフレームから一段下がった底板はフラットで、電源ユニット搭載部にあたる箇所には、通 気孔が設けられている。またメンテナンス性が考慮された防塵フィルタは着脱式で、シャーシ底板にスライド固定。引き出し用ハンドルにより、PCケース本体 をひっくり返す事なく掃除ができるようになっている。
ただならぬ外観部をチェックしたところで、ここからはPCケース本来の役割を決定付ける内部構造に目を向けていこう。なおPCケースでは重要なポイントとなるドライブベイ機構と冷却機構については、別項で詳しく解説していくことにする。
エアフローに並び、PCケースの花形といえば、ドライブベイ機構だ。大容量HDDのみならずSSDも入手性が格段に向上し、ヘビーユーザーに限らずスト レージを複数台搭載させる人がほとんどだろう。いくらあっても困らないのが、ドライブベイ格納スペースというわけだ。
「COSMOS II」の巨大な内部容量から、大いに期待してしまうのは筆者だけではないはず。さらに高額PCケースとくれば、さぞ凝った搭載機構やレイアウトが用意されているに違いない。
アルミニウム製で高級感を演出し、開閉機構を備えたスライドドア。その中には、5.25インチオープンベイ×3段とセキュリティロック機構付きのホットスワップベイ「X-dockスロット」が装備されている。
5.25インチオープンベイの存在価値については、これまで幾度となく触れてきたワケだが、「COSMOS II」ほどの大型PCケースでも3段と控えめな設計。数年前なら「少ない」と総叩きにあったはずだが、主たる利用用途である光学ドライブは今や1台が標 準。ファンコントローラーなどの5.25インチドライブベイアクセサリーも現状おとなしく、3段設計は必要にして十分だろう。
一方で、これまで5.25インチドライブベイスペースだった場所に浸食してきたのが、3.5インチシャドウベイだ。「COSMOS II」には5.25インチベイサイズを使い、「X-dockスロット」が2段用意されている。いわずもがな3.5インチSATA HDDのホットスワップベイで、HDDをカートリッジ感覚で容易に付け替えることができる。容量単価が落ち着きつつあるHDDを手軽に出し入れしたい需要 に応える便利なギミックで、可動式ベゼルはロック機構も装備されている。
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代表作となる初代「CM 690」の3.5インチシャドウベイ機構で、PCケースカテゴリに一石を投じたCooler Master。今や多くのPCケースで類似のスタイルを見る事ができる。
「COSMOS II」もその流れを汲み、“ミドルケージ”で全5段、“ボトムケージ”で全6段の合計11段を装備させた。後者は3段のケージが並列にレイアウトされ、電 源ユニットの搭載スペースと分け合う形で底面に配置。なおボトムケージは背面各2本のネジで固定され、着脱できる。
SSD用途にも配慮された2.5インチ/3.5インチ共用シャドウベイは、カートリッジタイプのABS樹脂製トレイ(ブラケット)で、3.5インチHDDはツールフリー、2.5インチSSD/HDDはボトム部のネジ留め式が採用されている。
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内部容積も広大なPCケースだけに、十分なエアフローを得るには複数の冷却ファンが求められる。ただし「COSMOS II」の場合、各々の熱源毎に熱処理をする設計がなされているため、必ずしもPCケース内部に“容赦なく風が吹き荒れる”必要はない。最大10基のファン で動作させることができる、そのエアフローレイアウトをくまなく紹介しよう。
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まずはフロントファンから確認してみよう。PCケースの顔となる部分にはBlueLEDを内蔵した200mm口径ファン×1基を標準搭載。フロントパネ ル部はメッシュ仕様で、防塵フィルタを装備する。ツールフリーで簡単に着脱できるため、溜まったホコリを除去するメンテナンス性も考慮されている。
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ドライブベイセッションで既に紹介済みの冷却ファンユニットをもう少し詳しくみていこう。
ボトムケージ部分の冷却を担当するデュアルファンは標準装備。スペックは120×120×25mmサイズの1,200rpm/17dBA仕様で、コネク タは3pinタイプ。画像からも分かるように、フロントパネル側にあるツマミを指で押すことで90度強開き、ユニットごと簡単に取り外す事ができるようになっている。
この開閉機構は、内部に仕込まれた2.5/3.5インチドライブの着脱時に必須だが、ユニット本体の着脱が容易にできる親切設計は、この部分に隠された拡張性に貢献する事になる。
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正面左サイドパネル部下部にもファン搭載スペースが用意されていた。
サイドパネル裏側を見ると、大きく矢印が確認できる。その先には上下に2個のネジがあり、これを緩めることでサイドパネル下段のプラスチック製プレート を外す事ができる。通気孔と防塵フィルタが装着されたこの部分には、120mmファン2基が増設可能で、側面からの直接エアフローにより、拡張カードの冷 却強化ができる。
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3.5インチシャドウベイに搭載したドライブに直接風を当てる事ができるフロント200mmファンの延長線上、対面に位置する場所にも120mmファン1基が増設できるスペースが用意されている。
「COSMOS II」使いともなれば、マルチグラフィックス構成でいこうという人も多いはず。オプション扱いとなるこの増設スペースに120mmファンを搭載すれば、グラフィックスカード等の拡張カードの冷却補助にも一役買ってくれそうだ。さらに複数搭載のヘビーユーザーのみならず、パッシブタイプのグラフィックスカー ド使用時も役に立つはずだ。
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あれもこれもの豪華装備だが、ファンコントロール機能も標準で搭載されている。追加投資なしでファン回転数が制御できるうれしい装備のひとつといえるだろう。
トップカバーを開くと中央のPowerスイッチ類外周には6つのボタンが配列され、その内左右各2個は「FRONT」「TOP」「HDD」「GPU」それぞれのファン回転数切替用ボタンに割り当てられている。
回転数の切替はLow Speed、Mid.Speed、High Speedの3段階で、変更したい箇所のボタンをワンプッシュする毎に変化。アクティブなモードは発光色Blue→Purple→Redで視認できる仕組 みだ。プッシュする毎に発する“ピッ”という音がやや派手だが、操作性は良好で、動作シーンによってこまめに切り替える事ができる点は、重宝するだろう。
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大型PCケースだけに、拡張カードスロット部はまさに“やりたい放題”。クラス最大級となる全10段にはスリットタイプの拡張ブラケットが装着され、 4-wayマルチグラフィックス構成に対応する。さらにタテ列にも1段が用意され、Cooler MasterのCPUクーラーでも採用される拡張ブラケット型のファンコントローラーの固定にも便利だ。
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大型PCケースだけに、さぞ広大な電源ユニット搭載スペースが用意されているかと思いきや、意外にも見慣れたミドルタワーPCケース並の「COSMOS II」。同一ラインにある2列に並べられた3.5インチシャドウベイが思いの外場所を占有しているのがその理由だが、それでも実測値で有効スペースは約 230mmあり、1,000W超の電源ユニットも搭載できるだろう。
なお搭載方法はPCケースの外から電源ユニットをインストールさせる”外付け式”を採用。ロングタイプの電源ユニットでもストレスなく搭載させるための工夫が見て取れる。
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搭載手順は至って簡単。作業にストレスを感じることはない。電源ユニット搭載用のカバー(枠)がつけられたPCケースをたまに見かけるが、 「COSMOS II」の場合、シャーシ面からはみ出す”出っ張り”が設けられている。これはPCケース側の搭載スペースを“あと少し稼ごう”というための工夫。実測値で 25mm程度だが、この出っ張りがあることで、広い電源搭載スペースを備えた大型PCケースの面目を保っているともいえるだろう。この25mmは 「COSMOS II」にとって、非常に重要な部分なのだ。
ここで「COSMOS II」に同梱される付属品をチェックしておこう。なお各パーツ名はマニュアルに準拠し、カッコ内は数量となっている。
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隅々「COSMOS II」をチェックしてきたが、最後に組み込みを行ってみたい。実際に作業を進めていくと、マニュアルや外観だけでは分からない部分が見えてくる。ここまで のセッションでは、非の打ち所がない「COSMOS II」だが、どこかに思わぬ欠点があるのではないだろうかと、やや斜に構えつつ、気付いた点を挙げていこう。
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「COSMOS II」は国内外を問わず、水冷を導入するユーザーが非常に多いという。これほどの“逸材”だけに、普通に組んではつまらないと思うのも当然だ。また水冷 ユース用にラジエーター設置スペースや搭載用ブラケットを付属させるなど、Cooler Masterもそれを意識した設計で市場に送り出した事は容易に想像できる。
そこで今回はスケジュールの関係上、水冷構築の“序の口程度”ではあるが、汎用ラジエーターのみを用意し、最適化された搭載スペースに設置してみることにしよう。
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ドライブベイセッションでも紹介した、ボトムケージ部分には、HDD冷却用120mmファン×2基のユニットが搭載されている。この2つのケージとファ ンユニットを外すことで、240mmサイズのラジエーターが搭載できるワケだ。なおラジエーターを設置するには、付属の「Radiator bracket」を使用する。
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完全に市民権を得たリアファン搭載スペースを利用してのオールインワンタイプはこの際さておき、各々のパーツを好みや設置条件によってチョイスし、拡張性も確保される汎用水冷システムのユーザーが増えている。
PC構成パーツに目を向けると、Turbo Boost TechnologyやGeForce GTX 680に搭載されるGPU Boostなど、CPUやGPUの冷却に気を遣う事で、さらなるパフォーマンスアップが期待できる技術の台頭は、水冷環境移行への手助けのひとつになるか もしれない。
また、昨今のPCケースは電源ユニットボトムレイアウトが主流だけに、トップ面には大口径ファンを複数搭載できるように設計されている事が多い。これは 汎用ラジエーター設置には格好の場所であり、一昔前に比べれば“労せずして”水冷環境のベースが入手できるというワケだ。
さて軌道を修正し、「COSMOS II」に戻ると、トップ面には120mm口径ファン1基が標準搭載され、さらに2基増設できるスペースが確保されている。つまり理論上、120mmファン 3基のラジエーターが搭載できる計算になる。今回は手持ちの240mmサイズを装着してみたが、全くもって問題なく、トップ面に固定した120mmファン 2基も当然ながらトップカバーと物理的干渉を起こす事なく装着できた。水冷ユニット構築に最適化されたPCケースだけに、「COSMOS II」購入を検討している人は、是非ともチャレンジして頂きたいと思う。
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次に拡張カード有効スペースを計測してみる。今回テストに使用したのは、カード長公表値285mmのGIGABYTE「GV-R797OC-3GD」だ。
結果、3.5インチシャドウベイユニットの側面までは、実測値約135mmの空きスペースができた。十分“長モノグラフィックスカード”といえる 「GV-R797OC-3GD」が小さく見えてしまうのは全体容積の大きさからとも言えるが、実際にこれだけの空間があれば減りつつはあるものの、補助電 源コネクタ縦配列仕様のグラフィックスカードでもストレスなく配線できるだろう。
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今回の組み込みテストでは、広大なケース内部スペースを際立たせるため、敢えてLGA2011のリテールクーラー「RTS2011AC」を装着した。結果はご覧の通り(画像参照)。実測値で高さ190mmのCPUクーラー有効スペースはあらゆる大型CPUクーラーが搭載できるほどの空間が確保されており、申し分などありはしない。
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多くのドライブが搭載できる点は大いに歓迎するが、それに比例してPCケース内部に生えるケーブルの本数は尋常では無い状態に陥る。さすがにその点は織り込み済みだけに、ケーブルマネジメント機構も十分に配慮されているのが「COSMOS II」の特徴でもある。
昨今のPCケースでは当たり前となった、マザーボードトレイ背面スペースの“ケーブル取り回し”だが、裏配線用スルーホールは要所に装備されている。頭をひねりながらじっくり配線すれば、大型PCケースの利点を活かした、スッキリとした仕上がりになるはずだ。
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ひと通り組み込みが完了したため、最後に実働テストを行う。レビューといえばPCケース内部温度やCPU温度等を計測するのがセオリーだが、このクラス のPCケースともなれば、バラック状態とPCケース内部に組み込んだ状態では、数字に大きな差が出にくい。誤差を考慮すれば、僅かな数値の違いで“冷え る”などと断定するには少々乱暴ではないか。そこでより現実的に騒音値に絞ってテストしてみる事にしよう。
「COSMOS II」のサイドパネルは、通常のPCケースとは違いプラスチックとアルミニウムの2重構造。さらにパネル厚も最大で約24mmにもなり、遮音性が高いので はないかと睨んだ。また件のファンコントロール機能により、3段階にファンの回転パターンが設定できる。つまりPCケースから発せられる駆動音も3段階に なるはずで、各々の騒音値も気になるところだ。
ここではPCケース前面から30cmの位置に騒音計を設置し、それぞれの回転パターンでの駆動音を、正面左サイドパネルのオープン時とクローズ時の2パ ターンで数値を採ってみた。なお計測した室内騒音値は29.6dBAで、「COSMOS II」の標準搭載ファンは全て動作させている。
「Low Speed」のサイドパネルオープン時37.2dBAに比べ、クローズ時は35.71dBAと-1.49dBA騒音値が下がった。さらに「High Speed」になると、オープン時41.4dBAがクローズ時で39.0dBAと、-2.1dBAも低下している。この数値ともなれば、実際に耳に聞こえ てくる音の違いもハッキリ分かるレベル。騒音値テストから「COSMOS II」のサイドパネルの遮音性は予想通り高かった。
編集部滞在約1ヶ月間。人気の大型PCケース「COSMOS II」をあらゆる側面からチェックしてきたが、国内はもとより海外からも絶賛されるモデルだけあって、近年希なる完成度の高い製品だった。設計からリリー スまでやや難産であったと聞く「COSMOS II」だが、さすがに熟成された感はそこかしこに感じられ、当分の間はライバルモデルを寄せ付けない最上位クラスのアッパーミドルPCケースとして君臨し続けるだろう。
PCケースは2つに大別できる。いわゆる“ツルシ”の状態で使うモデルと、“カスタマイズ”に向いたモデルだ。大多数は前者だが、「COSMOS II」は明らかに後者の要素が高く、水冷構築を筆頭にカスタマイズできる可能性を数多く秘めている。これまで諦めていたものが実現できるベースとしては、 これに変わるPCケースはそう見当たらない。蛇足ながらツルシ状態で使う場合でも、たくさんのギミックは自作派を楽しませるには十分だ。その出来映えは 120点である。
このまま褒めて終わればいいもの、敢えてひとつだけ付け加えると、意味も無く開閉したくなるサイドパネル開閉ギミックに注文がある。極めて筆者の個人的要望だが、開閉機構の蝶番を逆にしてはどうだろうか。
「COSMOS II」の本体重量は公称約22kgだが、実際に組み込みを行って計測したところ、27.4kgだった。例のハンドルが無ければ僅かな移動すら容易ではな い。仮に筆者が所有した場合、机の下に設置することになるため、現状のフロント側蝶番だと開いたサイドパネルが広大な面積のブラインドと化す。狭い机の下 でヘビー級の本体を動かさずにメンテナンス作業を行うことはできず、本来の利便性が発揮できない。つまりこれではただのギミックとなってしまうワケだ。
世界の自作市場で大ヒットとなっているモデルに対し、遠吠えのごとく蝶番に注文を付けるのは憚られるが、それでも出来映え120点、個人的リクエストに マイナス20点としても久々に100点満点に値する。貸し出し期間延長までした評価機の「COSMOS II」。誰が返すもんか。