エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.185
2012.10.29 更新
文:GDM編集部 松枝 清顕
ここまで「P280-MW」の細部をチェックし、静音PCケースを謳うその理由を画像やスペック表で確認してきた。なるほど二層の遮音パネルや冷却ファン搭載数を最小限に抑えた、俗に言う“窒息系”PCケースである事は誰もが認めるところだろう。しかし、実際に動作させた場合でも、本当に静音PCケースと言えるのだろうか。
そこでここからは実際にPC構成パーツを組み込み、動作時の騒音値をデジタル騒音計を用いて計測してみたい。なお計測ポイントは底面以外の全方位。「P280-MW」真の実力を問う。
【機材構成】CPU:Intel「Core i7-3770K」、CPUクーラー:Intel純正、M/B:MSI「Z77A-GD80」、VGA:Radeon HD 6970(リファレンス)、メモリ:CORSAIR「CMZ16GX3M2A1600C10」(DDR3-1600MHz/8GB×2)、SSD:PLEXTOR「PX-256M3」、電源ユニット:Antec「EA-650-PLATINUM」 |
「P280-MW」の標準搭載冷却ファンはリアの120mm口径「TWOCOOL」のみ。2段階調整機能により、600rpmと1,200rpmで動作する。そこで、600rpm時と1,200rpm時の各動作時、さらに二層構造の遮音パネルの有効性を知るべく、両サイドパネルオープン時とクローズ時の計4パターンで騒音値を測定した。なおデジタル騒音計は測定ポイントから30cmの位置に設置している。
まずは600rpm時での騒音値を見ると、サイドパネルオープン時で最も高い数値は(4)左サイドパネル部の34.8dBAだった。構成部品が直接むき出しになるため、想像通りの結果といえる。ではサイドパネルを閉めた場合の数値を見ると、(4)34.2dBAで-0.6dBA。僅かな数値だが確実に値は下がっている。一方、最も数値が下がっているのは、(5)右サイドパネルで、-4.0dBAと顕著だった。いずれもサイドパネルを閉めた効果は得られているが、そもそも600rpm動作自体が静音の範囲内。それでも実際に耳で感じる動作音は数値以上に静音化された事がハッキリとわかる。
では次に、1,200rpmに回転数を上げ、同様に計測を行ってみよう。
リア部にあるスイッチを操作し、回転数を倍の1,200rpmに設定すると、耳からも騒音値が増した事がよく分かる。計測結果だが、この程度の回転数上昇では、(2)トップ部の数値に大きな違いはでていない。ただし両サイドパネルからの音は確実に上昇している事が数値にも表れており、さらにサイドパネルを閉める事で、音が閉じ込められている事が分かる。特に(5)右サイドパネルはオープン時とクローズ時では-4.2dBAもの違いが出ており、その効果は非常に高いといえるだろう。
今回行ったテストから、意外にも右サイドパネル側の騒音値が高かったこと、さらに二層構造の遮音パネルは、額面通りの役割を果たしていることが分かった。よって、より静かな環境でPCを使うには、(5)右サイドパネル側を壁につけるとよいだろう。つまりメンテナンスを考慮し、多くの自作ユーザーが設置しているであろう方向こそ、最もPCを静かに使うには正解というワケだ。
未だ「P180」登場の衝撃が忘れられない自作ファンは少なくないだろう。筆者もそのひとりだが、自作の愉しみ方の要素として「静音」に注目が集まり、日本市場でブームが巻き起こったタイミングに投入された「P180」は、自作史上に残る名品であることに異論はないはずだ。そのコンセプトもさることながら、当時「静音」の概念は日本国内市場にほぼ限定されていただけに、アメリカに本拠地を置くAntecが「静音」を大きく牽引していくことになるとは、誰もが想像できなかった。見事なまでの先見の明は、現在の自作市場にも受け継がれ、ここに「P280-MW」が誕生した。
思えば「P180」の“ひとり勝ち”の頃に比べ、自作市場は大きく変わった。PCケースやCPUクーラーは言うにおよばず、グラフィックスカードや汎用ケースファンもチョイスを間違わなければ、十分に静音PCを作ることができてしまう。極端にいえば、バラック状態でも静音動作ができてしまうからややこしい。作り手のテクニックを磨いたり、少しずつ静音パーツに組み替えていく楽しみは、自作構成パーツの進化が進むにつれ奪われてしまった。
しかし今回「P280-MW」と数日を過ごして感じたのは、静音ブーム火付け役の一翼を担ったAntecの“原点回帰”だ。世に氾濫する“標準静音パーツ”をよそに、「P180」から正常進化を続け、“多少の寄り道”はあったものの、現代でも通用する正当派静音PCケースを見事に完成させている。二層遮音パネルの効果を再認識させられ、シンプルで作りやすい設計を最も需要のあるミドルタワーサイズでうまくまとめあげている。多少うるさい構成部品の駆動音も閉じ込めてしまう実力は、Antecならではだ。
「P280」シリーズで唯一、リア排気ファン1基で挑んだ“窒息系PCケース”「P280-MW」は、兄弟中でも異質の存在。独自型番がつけられなかった辺りは、Antecの迷いが見え隠れするものの、これを機に独自の路線を進み続けてもらいたい。