絵踏一のKeyboard一点突破 Vol.3
2013.02.05 更新
文:GDM編集部 絵踏 一
「MX5000」が採用するソフトタクタイルスイッチのMX茶軸。柔らかながら、入力を感知する“タクタイルフィール”がある。打ち心地のクセもなく、万人向けといえるスイッチだ |
MX茶軸の荷重は約50±10gで、ストロークは4mm。1mmを過ぎたポイントで反発点を迎え、荷重が抜けてそのまま道通するという仕組みだ。ちなみに1cN=0.98g重のため、そのままgに読み替えてもOK |
「MX5000」の心臓部といえる採用スイッチは、Cherry MX茶軸。おそらくCherry MXスイッチの布教が進んだ現在において、最も人気があると思われるスイッチだ。その最大の理由はクセのないソフトな打鍵感にある。
MX茶軸の荷重は約50±10gで、認識点では約55g。1mmをこえたあたりというかなり浅い部分(ストロークは4mm)にソフトな反発点があり、そこを通れば荷重が抜けて底打ちするという仕組みだ。反発点で発生するタクタイルフィール(tactile feel)も、良好云々というよりは「気付きはするが意識しない」というもの。しっかりと入力を認識しつつも意識しすぎることがないという空気感は、あくまで作業機械という意味での“脇役”なキーボードの性格ともマッチする。荷重も当時リリースされていたスイッチの中では最も軽く、省力性の上でもベストな選択だ。
エルゴノミクス状態でリラックス入力できる茶軸はベストパートナー。配列も考えぬかれたレイアウトを採用し、手に馴染むのも早い |
このスイッチがとにかくエルゴノミクス状態での入力にピッタリとフィット、実に気持ちよく作業できる。パームレストにどっしりと腕をくつろげて、指先だけで入力するというアプローチに最適なのだ。左右の開き具合もかなり細かく調節できるため、自分にとって「これだ!」と思う角度がきっと見つかるだろう。
そしてこのキーボードに馴染みやすい理由のもう一つが、よく考えられた配列だ。小型化を図りつつもスタンダードを崩さないレイアウトのため、誰でもすんなりと使うことができる。リラックスして入力できるエルゴノミクスデザインと“いつもの配列”が絶妙に融合、気負うことなく使える気楽さは好印象だ。
ただし少々気になったのが、入力時にわずかに感じる基板の“たわみ”。Cherry製キーボードは鉄板を内蔵しない代わりに内部構造に工夫を加えているものの、特に右側のユニットで“たわみ”を感じるタイミングがあった。とはいえ、これも文句の一つも言っておかないと格好がつかない、という体から出た程度のもので、影響は軽微。柔らかな茶軸の性格も手伝って、エルゴキーボードの特性に逆らうような強めの入力をしない限りはそれほど気にならないと思われる。
とにかく快適なキーボードを叩きたい、という向きにオススメなモデルがこの「MX5000」だ。一般的なエルゴノミクスキーボードも同様のコンセプトから作られているはずなものの、より身体にしっくりくる、馴染み方が早いという点で「MX5000」は優れている。自分の身体にフィットするように調節できるのはもちろん、“いつもの配列”の延長で使えるため、変に“矯正される”的な感覚がない。誰でも使いやすく快適に入力できるキーボード、という実現の難しい境地を「MX5000」はすでに達成しているというわけだ。
まさにキーボードとして一つの結論を体現する、“完成されたキーボード”「MX5000」。その素晴らしさを一度はお試しあれ(高いけど・・・) |
そしてその配列をはじめ、キーボード全体のレイアウトが素晴らしい。まさに過不足のない配列とはこのことで、機能キーとの間や「Ait」キーと「Ctrl」キー間のスキマなど、本来余計なものとして片付けられがちな空間までしっかり確保されている。ただ小さくしようということではなく、かと言って余計なものを詰め込むでもなし。キーボードを使う人のことを考えて、考えぬいた末に生み出された、キーボードにとっての一つの結論ともいえる。
さらにそのキーボードを完成させる要素が、ソフトタクタイルスイッチのMX茶軸だ。これが例えば黒軸であれば重すぎ、青軸であれば煩く、柔らかで空気のような感覚で入力できる茶軸がエルゴノミクスキーボードのスイッチとして最高の組み合わせだった。
いささか気軽に手にするには高価すぎるモデルではあるものの、ぜひ機会があればその完成されたレイアウトと、自分ピッタリのエルゴ形状を試してみてほしい。そして今後「MX5000」のDNAを受け継ぐキーボードがリリースされ、価格面でのジレンマが解消されることに期待したい。