エルミタ的「一点突破」PCケース編 Vol.9
2013.07.08 更新
文:GDM編集部 松枝 清顕
Cube形状も手伝って、十分な電源ユニットの搭載スペースが確保された「E-M5」。しかしやや問題もある。それは搭載方向だ。
現在の電源ユニットは、冷却ファンが底面に取り付けられているモデルが主流だ。外気を吸い込み、背面から排出するエアフローレイアウトである事は今さら説明するまでもないだろう。つまり冷却ファンの吸気方向は外気を取り入れる事ができる、外向きになる。当然今回の搭載テストでも、電源ユニットの冷却ファンは外向きにしているが、少々問題なのは、ここをふさぐサイドパネルだ。
外観セッションで解説したが、電源ユニットがマウントされる面となる左サイドパネルには、上下段に分かれて通気口が設けられている。電源ユニットの冷却ファンは、この通気口を利用して外気を吸い込む事になるが、これを担当する上段の通気口の高さが実測60mmと十分に吸気するには幅が狭く、冷却ファンの半分程度しかフォローしてくれない。
外気を取り入れるべく、外側に向けた電源ユニットの吸気ファン。しかしこの面を塞ぐ左サイドパネルの吸気口が狭く、十分に外気を取り込む事ができそうにない |
これを嫌い、敢えてCPUソケット方向(内部)に吸気ファンを向けてマウントする手もあるが、CPUクーラーは吹きつけ方向、隣接する電源ユニットは吸い出し方向になるため、これも感心できない。そもそもこの悩みは左サイドパネルの吸気口の高さを、せめて120mm口径ファンに合わせておけば回避できること。外観を損ねる事を嫌ったとも思えず、この点については設計者の意図が理解できない。
小さなPCケースでは、必要なケーブルだけを接続すればいいモジュラー式が有利。だが、搭載テストでは敢えてケーブル直結式のAntec「EA-650-PLATINUM」をチョイスした。ケーブルのボリュームとPCケースの内部容積の関係を見極めるためだが、さしずめ朝のラッシュアワーのごとく、内部はたちまちケーブルで一杯になってしまった。
組み込みテストでは、マウンタを使用して2.5インチSSDと3.5インチHDDを搭載している。つまりボトム面はこれらに占領され、余分な空間がない。また電源ユニットとCPUクーラー間にスペースがあるものの、冷却ファンと物理的干渉が気になる。さらにトップ部にはスロットインタイプの薄型光学ドライブの存在も頭に入れておく必要があるだろう。
このように、限られたスペースに効率よく構成部品をレイアウトさせている一方で、接続するケーブル類の処理は大きな課題だ。ケーブルマネジメント機構は望むべくもないが、せめて電源ユニットはモジュラー式を選びたい。
直結式電源ユニットをチョイスした場合、これらのケーブル類をすべて内部に押し込めなくてはならない。やはりモジュラー式は必須という印象だが、汎用変換マウンタを用意し、SFX規格の小型電源ユニットを搭載させる手もアリだろう |
COMPUTEX TAIPEI 2013で初めて目にした「E-M5」。縁あって編集部にいち早く届けられた評価サンプルを、やや駆け足でチェックした。正方形に近い小型Cubeにアルミニウム素材は実に相性が好く、全体が醸し出す精巧で頑強な造形物というイメージは多くの人が好感を持つだろう。REALANのブースで初めて「E-M5」を目にしたエルミタ取材班もそんなひとりだ。
一方で実際に組み込みを進めていくと、やや設計の甘さを感じる。構成パーツを各々レイアウトする「設計」については、限られた内部容積だけに制約も多く、妥当といえる。ただし、ネジ留めにより、パネル全面が取り外せる構造的な「設計」は、十分な強度が確保できていない。顕著だったのは、電源ユニットを固定すると若干生じる歪みだ。重量物である電源ユニットをリアパネルだけで固定し、その重量ストレスがボトムパネルとの接合部にくることから、左サイドパネルのはめ込みが突如きつくなってしまった。よくある事とはいえ、これは明らかに変形によるものだ。
一般的なPCケースのように、シャーシとパネルが完全に独立した構造ではない以上、組み込んだ構成パーツの重量は外壁となるパネルに大きな負担が掛かる。接合部の剛性は重要なポイントであり、PCケース全体に歪みを生じさせないためにも、ヒンジを設けるなど強度の確保が課題といえる。
とはいえ、アルミニウム素材の良さは秀逸で、部材ひとつひとつを手にとってみても”真面目に作られた”PCケースである事は感じられる。REALANブランドは、スモールPCフォームファクタを得意とするだけに、今後もシェアを伸ばしつつあるMini-ITXフォームファクタ市場を活性化させてくれる新製品の投入にも大いに期待したい。