• 編集部：
  初めから冷却系アイテムにこだわっていたのですか？
• 渡辺氏：
  いえ、そんなことはありません。PCパーツなら何でも扱うというスタンスでした。実際、設立当初はCPUクーラーを取り扱っていませんでしたから。
• 編集部：
  代理店ではなく、あくまでメーカーだと。
• 渡辺氏：
  実はそのあたりの切り分けも当初は曖昧でした。あまり深く考えていないという方が正しいかもしれません。例えば、みなさん忘れているかもしれませんが、日本で初めてThermaltake社の正規代理店になったのは弊社です。その後オリジナル製品も扱うようになっていきました。
• 編集部：
  国内パーツメーカーという立場から。現在の自作市場をどう思われますか。
• 渡辺氏：
  山です。山を既に超えたという印象。ただ単純に縮小しているという話ではありません。ここからは僕自身の見解になりますが、自作PCを現役で利用している人数には大きな違いはないと思います。ただし、アクティブに自作しているユーザーが減っているのが問題です。
  　実際、LGA775プラットフォームあたりのPCであれば、用途にもよりますが日常的な作業に不満を感じることは少ないはずです。PCの性能が大きく向上したため、常に最新のプラットフォームに移行したり、最新パーツを買い足したりという人が単純に減っている印象です。
  　また、スマートフォンやタブレットの台頭も大きな要因でしょう。常に持ち歩くアイテムであることから、PCに比べてコストをかけやすいのだと思います。
• 編集部：
  区切りというワケではありませんが、10周年を機になにか新しい試みなどはありますか。
• 渡辺氏：
  10周年と銘打って直接アピールするものは、CPUクーラーの「ASHURA SHADOW」くらいです。ただし、今まで扱ってこなかったアイテムへの積極的な展開をはじめています。その代表例がJONSBO製のPCケースですね。この手のコンパクトなアルミ製PCケースは、これまであまり注力していませんでしたが、小型PC環境の普及に合わせて、社内全体の取り組みとして、今後も強化していきます。また、店頭でのアピールもより一層強化したいですね。見た目も良くてコンパクト、さらに最新ゲームも動作するといったPCを、サイズ製パーツを使い組み上げて、店頭デモなどしていきたいと思います。

	サイズ10周年記念モデルと銘打たれた「ASHURA SHADOW」（型番：SCASR-1000SE）。今年2月に発売が開始されたハイエンドサイドフローCPUクーラー「阿修羅」をベースに、ブラックニッケルメッキ処理を施した完全数量限定品だ

「広告費の代わりにサンプルを積極的に配布しよう」

• 編集部：
  サイズといえば、他社にはない店頭での積極的なサンプル品の展示が特徴です。
• 渡辺氏：
  そういった意味では、秋葉原のパーツショップはこれ以上減ってほしくはないですね。
• 編集部：
  やはり実機の展示にはこだわりたいと。
• 渡辺氏：
  古い人間の言うことかもしれませんが、実際にショップへ足を運んでいただき、サンプル品を手に取って触っていただく。モノに触れる喜びを五感で感じてもらいたいのです。PCパーツは趣味性の高さや柔軟性（拡張性）、そしてドレスアップなどの個性の表現が可能である点ですよね。
• 編集部：
  ネットでポチっと購入では味気ない？
• 渡辺氏：
  もちろん便利ですし、なにより私もよく利用しています(笑）。でも購入するのは、わざわざ触らなくても分かるものです。自分はそうしています。
• 編集部：
  あれほどサンプル品をたくさん配布して大丈夫なのでしょうか？以前から新製品は確実にどのショップでも店頭展示されていますが。
• 渡辺氏：
  そこは完全に意識的に行っています。そもそも自分が始めたことですが、広告費の代わりにサンプルを積極的に配布しようと。やはりお客さんが自分で見て判断していただくのが一番ですから。
  　もうひとつ。我々メーカーにとっては、エンドユーザーも重要ですが、ショップのバイヤーも大事な顧客になります。自作パーツが好きな人ばかりですから、彼らに実際の製品を触ってもらうことで、色々なアドバイスをしてもらうのです。褒め言葉だけを聞きたいわけではありません。むしろダメ出しをしてもらいたい。それを次の製品に繋がる改善点に役立てていくことがとても大切なのです。
  　長い間モノ作りをしていると、どうしても独りよがりになってしまうところがあります。そういったとき、客観性を求める手段として、ショップ（バイヤー）の意見はとても重要になります。これは代理店として他社メーカーの製品を売り込む時も変わりません。メーカーの思いがこもった製品ですから、惜しまず触ってもらうのが基本です。

ショップのCPUクーラー売り場には、必ずと言っていいほどサイズ製品のサンプルが置かれている。自由に手に取り、じっくりと購入を検討することが可能だ

• 編集部：
  なるほど。サンプル品が多く配布される理由がよく分かりました。
• 渡辺氏：
  秋葉原のパーツショップを訪れた際にサンプルを確認するじゃないですか。その時に展示してある弊社の製品が、酸化して汚れた状態になっていると、たまらなく嬉しいですね。それだけ多くの人に触ってもらったのだなと。正にモノ作り冥利に尽きます。だって誰にも見向きもされず、きれいなままのサンプルなんて嫌じゃないですか。もちろん、あまり汚いものは弊社の営業担当を通して交換するようにしています。