エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.796
2019.11.14 更新
文:エルミタージュ秋葉原編集部 池西 樹
CPUクーラーに280mmラジエター以上の水冷ユニットが推奨されているRyzen 9 3950X。最近のミドルタワーPCケースであれば問題になることはあまりないだろうが、ミニタワーやMini-ITX専用PCケースでは物理的にラジエターを搭載できない可能性が高い。そのため、AMDではRyzen専用ユーティリティ「Ryzen Master」に、新機能「Eco-Mode」を追加した。
「Eco-Mode」を有効にすると、TDPが強制的に65W(TDP95W以下のモデルは45W)に下げられ発熱が低減。これにより、標準的な空冷クーラーでも冷却が可能になるという。そこで、テストセッションのラストは「Eco-Mode」の効果を、ベンチマークテスト「CINEBENCH」および、ストレステスト「OCCT 5.4.2」を使い検証していこう。
「Eco-Mode」の有効化は、「Ryzen Master」で「Eco-Mode」ボタンをクリックし、再起動するだけ |
再起動後「Control Mode」が「Eco-Mode」になっていれば作業は完了だ |
まず「CINEBENCH」のスコアを確認すると、シングルコアテストは「CINEBENCH R15」「CINEBENCH R20」とも結果に大きな違いは出ていない。一方、マルチコアテストはいずれも約15%スコアが落ち込んでいる。とは言え、Ryzen 9 3900Xのスコアは確実に上回っており、16コア/32スレッドのメニーコアのメリットは十分活かすことができる。
続いて「OCCT 5.4.2」実行中の動作クロックと温度の変化を確認していこう。通常4.175GHz前後で推移している動作クロックだが、「Eco-Mode」を有効にすると3.85GHz~4.05GHzに低下。変動の幅も大きく、細かくクロックを制御している様子が確認できた。また温度は通常60~75℃の間で大きく変動しているのに対して、「Eco-Mode」を有効にすると概ね55℃前後で安定しており、大幅に発熱が低減されている。
最後に消費電力を確認すると、アイドル時の消費電力はほとんど変化なし。一方、高負荷時は「CINEBENCH」実行時で約60W、「OCCT 5.4.2」実行時は約65Wと大幅に低下しており、省電力効果もかなり大きいことがわかる。
Ryzen 9 3900Xからさらに4つの物理コアが追加されたRyzen 9 3950X。マルチスレッド関連のベンチマークでは概ね30%以上高速で、ほぼコア数通りの結果。Core i9-9900Kとの比較では、多くのベンチマークで7割前後、最大では2倍もの差をつけ、マルチスレッド性能については現行のメインストリーム向けCPUでは間違いなく最高峰だ。
そして、メニーコアに特化した「HEDT」が苦手としているシングルスレッドやゲーム関連の性能も優秀。さすがにシングルスレッドが中心のPCにRyzen 9 3950Xを組み合わせるのはオーバースペックだが、マルチスレッド処理が中心のPCでも、これまでのようにシングルスレッド性能を犠牲にする必要がないのは大きなメリットになる。
シングルスレッド性能を妥協することなく、マルチスレッド性能をさらに高めたRyzen 9 3950X。メインストリームモデルらしく汎用性に優れ、正直パフォーマンス面の弱点は現時点で見当たらない |
また推奨の冷却システムに280mm以上のオールインワン水冷ユニットが挙げられるなど、冷却面のハードルが上がっている点を気にする人もいるだろう。しかし、若干の性能低下はあるものの、抜け穴として「Eco-Mode」が用意されるなど、多くのシステムで運用できるように細部までしっかりと考え抜かれている。
唯一の懸念材料となるのが供給量だ。12コア/24スレッドのRyzen 9 3900Xが発売から4ヶ月以上が経過した今でも購入するのが難しいことを鑑みると、Ryzen 9 3950Xの出荷量も当初はかなり限られることになるだろう。製品自体の完成度は文句のつけようがないことから、AMDにはできる限り早くRyzen 9シリーズの安定した供給を望みたい。
協力:日本AMD株式会社