エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.1020
2021.07.12 更新
文:池西 樹(検証)/文・撮影:松枝 清顕(解説)
ここまでの2つのCPUでは、CPU compatibility listに反してファンレスでもベースクロック以上を維持することができたNoctua「NH-P1」。続いてはファンレスではベースクロックを維持できず“非対応”、ファン搭載時でも“制限付き保証”とされるRyzen 9 5950Xでも検証を進めていこう。なおテストはRyzen 5 5600Xと全く同じ条件にて実施している。
16コア/32スレッドのRyzen 5000シリーズ最上位Ryzen 9 5950Xでもチェックをしてみることにした |
ファンレスでは「OCCT 8.2.1」「CINEBENCH R23」ともCPUが許容する最大温度の90℃まで上昇。動作クロックも「CINEBENCH R23」ではベースクロックの3,400MHzを大きく割り込み、3,000MHzまで低下。さすがに16コア/32スレッドのハイエンドCPUをファンレスで動作させるのは厳しいようだ。
一方、ファン搭載時は「OCCT 8.2.1」では突発的に80℃を超えることはあるものの概ね70℃前半。「CINEBENCH R23」では80℃を超えることは一度もなく、冷却性能に問題はなし。動作クロックもベースクロックを割り込むことはなく、安定動作させることができた。
最後に非接触型デジタル温度計と、サーモグラフィを使いヒートシンクの温度を確認していこう。計測はCore i9-11900Kのブースト機能を無効にした状態で「CINEBENCH R23」を実行している。
「CINEBENCH R23」実行時のポイント別温度計測結果 |
アイドル時のサーモグラフィ結果、高負荷時のサーモグラフィ結果 |
アイドル時のサーモグラフィ結果、高負荷時のサーモグラフィ結果 |
暖気をファンで吹き飛ばすことができる一般的なCPUクーラーでは、受熱ベースから離れるに従って温度が低くなる。一方、ファンレス方式のNoctua「NH-P1」では自然対流によって暖気が上昇するためかヒートシンク上側の温度が全体的に高くなる傾向があった。
またサーモグラフィの結果を確認すると、フィンの間の温度が周辺よりかなり高く、自然対流によって緩やかに空気が移動するため、暖気が溜まっている様子が確認できる。
はじめてプロトタイプが披露された「COMPUTEX TAIPEI 2019」に、Noctuaのプロフェッサー、Mr.Jacobの姿はなかった。私的な理由により不参加だったこの年、エルミタ取材班を担当したSTAFFによると、あくまで試作品であり「製品化についてのスケジュールは未定」という説明だったという。そこから僅か2年で製品化に漕ぎつけたのは、これまでのNoctuaを思えば異例のスピードだが、実際にはかなりプロジェクトは進行していた事が想像できる。
高価な製品であるだけに、冒頭で費用対効果について記したが、検証を終えた今ではその考えはほとんど消えてしまった。三度に渡るMr.Jacobからの深夜のメール内容は熱く、異例とも言える詳細な読み物と化したガイドラインは、開発陣の「NH-P1」に対する思いが十分に伝わるものだった。パッシブCPUクーラーという、コンシューマ市場では扱いにくく特殊な製品を、誰でも容易に入手可能な状態に抜かりなく整えられるのは、恐らくNoctuaだけだろう。
冷却能力だけを見ると、ハイエンド志向のサイドフロー型CPUクーラーには適わない。先の費用対効果の話を持ち出せば、「NH-P1」自体が成立しなくなる。そもそもパッシブCPUクーラーとは、冷却方法のアプローチが全く異なり、あらゆる条件を最適化し、セッティングを自ら行う奥深さがある。
「NH-P1」はたくさんの情報を包み隠すことなく開示し、多くのヒントを事前に共有している。つまりNoctuaの仕事はここまでであり、あとはわれわれユーザーのスキルを存分に発揮するだけだ。今回はかなりの時間を費やし、数週間にわたり編集部で検証を行った。そして今、「NH-P1」から、”自作力”が試されている事に気が付いた。
協力:Noctua