エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.1438
2024.07.16 更新
文:撮影・編集部 松枝 清顕/池西樹(テストセッション)
Core i9-14900KのMTP設定でも、完全に発熱を抑えることができたNoctua「NH-D15 G2」。他社のCPUクーラーと比較して、どの程度のパフォーマンスを発揮するのか気になるところ。そこで2024年に検証を行ったハイエンド空冷クーラーサイズ「MUGEN 6 Black Edition」、CORSAIR「A115」、そして360mmサイズラジエーターを採用するオールインワン型水冷ユニットDeepCool「MYSTIQUE 360」、Cooler Master「MasterLiquid 360 Atmos」と比較してみることにした。なお比較用のデータは、ストレステスト「Cinebench 2024:30 minutes(Test Stability)」、PL1/PL2=253W設定のスコアを採用している。
空冷クーラーの中で比較すると、サイズ「MUGEN 6 Black Edition」より約6.5℃、さらにこれまで検証した空冷クーラーでトップクラスの冷却性能を誇るCORSAIR「A115」より約1.5℃低く、まさに空冷最強CPUクーラーの名にふさわしい結果。さらにCooler Master「MasterLiquid 360 Atmos」との比較でも同等のパフォーマンスを発揮しており、ハイエンドなオールインワン型水冷ユニットと互角の性能を空冷でも発揮できる事を証明している。
Intel LGA1700ソケットの標準ILMはテンションが強く、ソケットの圧力でCPUが反ってしまうため、CPUクーラーのベースプレートとの密着が懸念されている。その対策としてNoctuaでは「NH-D15 G2」にLGA1700ソケットのILMに挟み込むことでテンションを下げる1mm厚ワッシャー「NM-ISW1 SHIM WASHERS」が付属している。ここではその効果を確認してみたい。
LGA1700ソケット標準のILMを付属のトルクスドライバーで外し、1mm厚ワッシャー「NM-ISW1 SHIM WASHERS」を挟み込む |
検証にはベースプレートの凸部分を高くした「NH-D15 G2 HBC」を選択。Power LimitはPL1/PL2=253Wで、ストレステストには「Cinebench 2024:30 minutes(Test Stability)」を使用している。
まず「NH-D15 G2」に付属の1mm厚ワッシャーを組み合わせた場合だが、テスト中の平均温度は約2℃低下。「NM-ISW1 SHIM WASHERS」の効果が確認できた。さらに「NH-D15 G2 HBC」では、「NH-D15 G2」から平均温度は約3℃低下しており、LGA1700ソケットで使用する場合は「NH-D15 G2 HBC」を積極的に選択したい。ただし「NH-D15 G2 HBC」に1mm厚ワッシャーを組み合わせた検証では、ほとんど冷却性能に違いは出なかった。
テストセッションのラストはサーモグラフィの結果を確認していこう。PL1/PL2=253Wで、「Cinebench 2024:30 minutes(Test Stability)」を実行して20分経過した際の温度を撮影している。
アイドル時のサーモグラフィ |
高負荷時のサーモグラフィ |
アイドル時のサーモグラフィを確認するとヒートパイプ部分の温度が明らかに高くなっている事がわかる。また高負荷時には、ヒートパイプ部分を中心にヒートシンク全体の温度が上昇しており、CPUから発生した熱が効率よく拡散している様子が確認できる。そしてメモリ側のヒートシンクと、リアインターフェイス側のヒートシンクを比較するとフレッシュな外気が直接吹き付けるメモリ側のヒートシンクの温度が全体的に低くなっている。
Noctuaのハイエンド系空冷クーラーの新作が出るたびに「もうこれ以上のアップデートは難しいだろう」と思うのだが、2014年に発売された「NH-D15」は、10年をかけて第2世代(Generation 2)への世代交代を果たした。仮にGeneration 3があと10年後だとすれば気が遠くなりそうだが、Noctuaの製品開発はじっくりと時間を掛ける分、完成品は間違いがなく、どこをつついても詳細な資料が用意され、疑問点をぶつければNoctuaのプロフェッサー・Jakob氏の長い講義が始まる。
NH-D15 G2は、受熱ベースプレートの違いで3パターンが製品化されている。本来であれば、オールラウンダーのNH-D15 G2(無印)だけでも十分だが、HBC(High Base Convexity)とLBC(Low Base Convexity)も製品化し、実際に販売してしまった。販売店や代理店泣かせの複数モデル展開ができるのは、世界中を見回してもNoctuaくらいだろう。一切妥協しないポリシーは、製品開発における姿勢も同様で、自ら高く設定したハードルを10年を掛けて超すスタイルは、もはや尋常ではない。
肝心な冷却性能については、終えたばかりの検証結果が全てだ。わざわざ振り返る必要はないだろう。
国内市場での販売は間もなくと聞いている。ウワサで聞いた市場想定売価は明らかに高価だが、開発の苦労と積み重ねた検証と実験、そしてこれに費やしたコストと時間を思えば、一概に高価のひと言で片付けることはできない。
とかく”冷える・冷えない”、”高い・安い”で製品の善し悪しを語る風潮があるが、製造側のこだわりや製品化に至るまでのプロセス、開発の苦労なども是非理解し、数多く開示されている資料にも目を通して欲しい。きっとCPUクーラー(特に空冷)への考え方が変わるはずだから。
協力:Noctua