2019.07.28 00:00 更新
2019.07.28 取材
PCやスマホ三昧の僕らに潤いの1冊・・・。旅する書評家・北村有さんが"これぞ”と思った本を紹介してくれます。週末くらいは液晶画面から離れて、ゆっくり読書を楽しみましょう。
以前、面白法人カヤックCEO柳澤さんの著書「鎌倉資本主義」をタブレットレポート連載で取り上げましたが、またもやとある社長さんの自伝を手に取りました。
起業を目指しているわけでもないのに、やたらと「社長」という存在に惹かれるようです。旅する書評家、北村です。今回は、サイバーエージェントの社長・藤田晋さんの「渋谷ではたらく社長の告白」です。
渋谷ではたらく社長の告白〈新装版〉 著者:藤田 晋 出版社:幻冬舎 2013年6月27日発売(302ページ) 定価:576円(税込) 判型/仕様:文庫本 ISBN:978-4344420168 |
サイバーエージェントは、インターネット広告事業やメディア事業に携わる会社。ブログサービス「Ameba」やインターネットテレビサービス「AbemaTV」をはじめ、マッチングアプリ「tapple」やWebメディア「新R25」など、一度は名前を聞いたことがあるメディア・サービスをつくっています。
サイバーエージェントという会社の名前は、少し前から知っていました。よくあるIT企業と同じように、若い人が集まってわいわいやっているようなイメージをもっていました(貧困ですね……申し訳ない)。
ですが、それにしてはやけに、名前をよく聞くのです。「よく聞く」というレベルではないな、と感じていた頃、各方面から勧められたのが本書「渋谷ではたらく社長の告白」でした。
開いて数ページ読み進めてみると、なぜこの本がよくおすすめされているのか、瞬時にわかった気がしました。ただのスタートアップやベンチャーの記録ではない、藤田晋という1人の人間の、まさに血汗涙にまみれた自伝的小説だったのです。
この「渋谷ではたらく社長の告白」は、藤田晋社長がどのようにして起業にいたり、現在のサイバーエージェントを作り上げてきたのが、彼自身の目線から一人称で綴られた自伝です。おそらく、同じような社長や起業家の間では、バイブルとして語り継がれてきた1冊なのでしょう。
まだ学生だった頃から、最初の会社を立ち上げ、起動にのせていくまでの悲喜こもごも、紆余曲折をストーリー豊かに描写しています。堅苦しい自伝やビジネス書は肌に合わない、という方でも、この本ならすっと物語に入り込めるはずです。
物語の序盤、藤田社長がまだ「社長になりたて」の頃、学生時代から知り合いでそのままアルバイトへ→社員として引き抜いた凄腕の石川くんという人物が登場します。この石川くんを指して、藤田社長がいったある一言。
「石川くんみたいな学生を取れば社員と変わらないじゃん」
このあとに、「石川くんみたいな学生ってどこにいるんだろうな?」とも続いています。タイトルにも少々もじって引用した、お気に入りのフレーズの1つです。
ここで皆さんに考えてほしいのが、
の違いです。
一般的に、学生アルバイトと社員では、まず待遇が違います。ただ、純粋な「労働時間」でみれば、必ずしも差があるわけではありません。もちろん就業先にもよりますが、1日8時間アルバイトのシフトに入っている学生なんて珍しいものではないでしょう。
働く時間は一緒なのに、アルバイトと社員という、立場の違いだけで待遇に格差がうまれる。ここに不満をもつために、学生アルバイトの士気は下がってしまうのです。下がって当たり前だと私は思っています。
最近は、ブラック企業ならぬ「ブラックバイト」なんていう言葉もあるのだとか。安く使えるのを良いことに、まさに消費物のように扱う背景が垣間見えていますね。
傍から見たら、作中の石川くんだって、ブラック企業と何ら変わらぬ働き方をしているようにしか映りません。それでも、彼はすすんで藤田社長の元につき、自ら希望してそのまま社員に立候補しました。とんでもない時間を働かされているのに、です。
この石川くんと、他の一般的な学生アルバイトでは、いったい何が違うのか?それは「目的意識」だと私は思います。
もちろん、藤田社長という、強く尊敬する人物のもとで働ける魅力も強かったに違いありません。ただ、それとは別に、石川くんには目的があったのだと思います。藤田社長とともに、他の仲間たちと一緒に、やりとげたい何かがあった。だからこそ、1日何時間でも働くことができたのだと思います。
学生アルバイトや新入社員には、入社後しばらく「ゲスト思考」が抜けない人も多いのだとか。いつまでもお客さん感覚で、仕事を与えてもらうのも、教えてもらうのも待っているだけ。自分から積極的に取りに行こうとしない。
やりたいことがあるのなら、成し遂げたいことがあるのなら、自分が何をすべきかは自ずと答えが見えてくるはず。
そこを突き詰めることをせずに、ただ「ブラックだ」「過重労働だ」と騒ぎ立てるのは、少しだけ筋が違うのではないだろうか。そんなことを、読みながら考えていました。
あなたは、今の自分の仕事に、どれだけ目的意識を持てているでしょうか。
「北村さんみたいな学生を取れば社員と変わらないじゃん」と言ってくれるような社長と出会えていたら、今頃私も、フリーランスではなかったかもしれませんね。
北村有(きたむら・ゆう) 国内一人旅と読書が趣味なフリーライター・旅する書評家。 ブログ:https://kitayu.net Twitter:https://twitter.com/yuu_uu_ |
文: フリーライター・旅する書評家 北村 有