エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.7
2009.05.19 更新
文:テクニカルライター Jo_kubota
自作PC、とりわけ電源ユニットにとって大きな転換期を迎えた2000年。この年に何が起きたかと言えば、IntelはP6アーキテクチャから、NetBurstアーキテクチャに大きく舵をとり、高消費電力時代となった。
そう、Pentium 4の登場だ。
そこで、我々自作ユーザーは大きな問題に遭遇する。Pentium 4は新たに4ピンの12V電源を必要としたため、それまで登場していた電源ユニットでは対応できなくなってしまったのだ。正確にはPCケースに付属している電源ユニットでは対応できなかったわけだ。そんな中、いち早く対応電源ユニットをリリースし、瞬く間にユーザーの心を掴んだのがENERMAXだ。
ATからATXへの流れのなかで、PCパーツを構成するパーツ点数は減る一方だったが、Pentium 4は新たなカテゴリとして「電源ユニット」を日本に根付かせた立役者でもあるのだ。(ちなみにパソコン=自作PCの台湾などでは、1995年頃からPCケースと電源ユニットは別売が普通だった)
今でこそ、PCケースと電源ユニットが別々なのは珍しくないが、2000年以前は、PCケースを買う=電源ユニットが付いてくるものだったのである。
さて、Pentium 4登場以前から、交換用ATX電源ユニットのメーカーとして、ENERMAXは認知されていたが、2000年を機に、一気にスタンダードなメーカーへと駆け上がった。そして時は流れ、今も自作PC市場で生き残る、老舗の電源ユニットメーカーとしてENERMAXが健在というのは、古くからの自作PCファンにとって心強いものがある。流行り廃りが激しい自作PC市場において、消えていったメーカーは両手では足りないことを考えると、長く愛用され続けることは非常に大変なことなのである。
と、一通りヨイショが終了したところで、本題に入ろう。
今回取り上げるのは、ENERMAXの大人気な電源ユニット「ECO 80+シリーズ」だ。この電源ユニットの一番のウリは、もの凄い静音で、発熱が低くて、効率が高くて・・・と、ここを読むような読者に、あえて説明する必要もないくらい、有名な電源ユニットなのである。でも説明しないと、編集者が許してくれないので、簡潔に特徴だけ挙げておこう。
この電源ユニットに搭載されているファンは、ちょっと普通のファンとは違う。この電源ユニット専用の可変式12cm角ファンであるMAGMAファンは、独特のフィン形状により風量を稼ぎつつも風切り音を抑え、さらに「マグネティックボール」と名づけられた軸受けによりモーター音を抑えた、非常に静かな12cm口径ファンとなっている。
ENERMAX純正「MAGMAファン」120mm 超静音で耐久性抜群のツイスターベアリングを採用。マグネットボールが軸を支持することにより、振動を大幅に低減する事ができる。 さらにバットウイング構造により、シングルブレイドのファンに比べ、風量が10~20%アップ。回転数は450rpm~1800rpmの可変式となる。 |
ECO 80+シリーズは名前のとおり、80PLUS認証を受けた、とても変換効率の高い電源ユニットだ。ECO 80+シリーズは、350Wから620Wまでがラインナップされているが、最大で「84.38%」(EES500AWT)の効率を実現している。
どんなに粗悪な電源ユニットにもヒューズとPFCくらいは入っているが、ECO 80+シリーズには、以下の8種類の保護回路が組み込まれている。
過負荷になって電源ユニットが損傷するのを防ぐ回路。定格を超える電流が流れた場合は自動的にシャットダウンされる。
例えば12V出力が、9Vまで落ちてしまったり、逆に14Vを超えてしまうと接続している機器が損傷する恐れがある。過電圧保護は何となくイメージできると思うが、低電圧保護回路は聞きなれない人もいるので、簡単に説明しておこう。電圧というのは「高い」ところから「低い」ところへ流れる現象を数値化したものに過ぎない。よく0Vというが、それは比較対照の電位差が無いという意味で、この世に厳密な「0V」というのは存在しないのだ。つまり電圧とは相対的な単位なのである。
仮に12V回路が9Vに落ちると何が起こるか。それは他の正常な12V回路から見ると、9Vは低い位置にあるので、その間にある回路に差し引き3Vの電圧が掛かるわけだ。電子部品の中には逆電圧(マイナスの電圧)が掛かると、壊れるものが多いので、こういった保護回路は非常に重要だ。
入力電圧が80VACを下回ると電源は自動的にシャットダウンされる。ATXの場合、中に昇圧回路が入っているものの、入力電圧が不足すれば電圧が不安定となり、その結果、負荷回路(マザーボードなど)にダメージを与える恐れがあるため、こういった回路も重要な保護回路だ。
合計出力が110~150%を超えると、オーバーロードを検知してシャットダウンする。個々の電子部品は、定格を越えても自分自身を保護することができない。そのため、外部から監視して、定格を超えないよう保護するわけだ。ただ瞬間的な電力増に対応するため、ほとんどの電源ユニットは、定格の110%~150%程度までを許容している。
電源ユニット内にあるヒートシンク温度が90~100℃に達すると自動的にシャットダウンされる。これは監視外の要因、例えば電源ユニットではなくマザーボードが発火して温度が急上昇したり、電源ユニットの故障により温度が上がった場合に自動的にシャットダウンすることで被害を抑えるといったものだ。
ショートとは、瞬間的に数十アンペアが流れる現象を指し、この状態が続くと間違いなく電子回路が損傷ないし発火する。先に紹介したDC過電流保護回路は正常運転状態にある場合に機能するものだが、数十アンペアが一瞬にして掛かると保護回路自身も損傷してしまう。それを防ぐための回路がショート保護回路だ。
近年では、雷による被害を抑える回路を搭載する電源ユニットが増えてきた。ECO 80+シリーズのサージプロテクタは、2KV(2000V)までの電圧ノイズ、または60Aの電流ノイズがACラインに流れると、ACラインから一時的に電源ユニット内部の回路を切り離して保護する。もっともサージ(雷ノイズ)は、LANやモデムなどからも進入してくるので、そちらも対策しておく必要がある。
ENERMAX エコ80PLUSシリーズのエントリーモデルとなる350W「EES350AWT」。 ATX12V Ver.2.3準拠の80PLUS認証取得モデルで、日本メーカー製電解コンデンサ、8重の保護機能を搭載。発売日:2009年4月25日 店頭予想価格:8,000円 |
普通、こういう媒体では、大容量の電源ユニット、または売れ筋である500~650Wクラスの電源ユニットを紹介するものだが、それではエルミタージュらしくない。
というわけで、普通やらないようなテストを今回はやってみることにした。それは、ECO 80+で、もっとも小さな容量となる350Wの「EES350AWT」に、無謀にもCore i7-965 Extreme Edition(以下Core i7-965 EE)システムを接続し、実際にこの電源ユニットがどこまで耐えられるのか試してみることにした。
EES350AWTのデバイスコネクタ。ATX24ピン+CPU8ピン+PCIe6ピンのほか、デバイスコネクタは3系統が用意される。またケーブルはメッシュ状のチューブでまとめられ、取り回しが非常にラク |
ちなみにCore i7-965 EEのTDPは130Wに設定されている。つまり最大で130Wの発熱があることを意味するが、実際の消費電力の最大値はCore i7のデータシートによるとMax145A×(1.22-0.15V)=155Wとなるようだ。もっとも、CPUを演算させて本当に100%のCPU使用率を維持することは、とても難しいことを考えと、TDPの130Wという数字を仮想消費電力の値として採用しても問題ないだろう。
テストに用意したPCの構成は以下のとおり。
テストPC構成 |
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CPU:Core i7-965 Extreme Edition/3.2GHz M/B:MSI X58 Pro(Intel X58 Express) Memory:PC3-8500 DDR3 SDRAM 1GB×3 VGA:ATI Radeon HD 4670 HDD:HDP725050GLA360 DVD:GGW-H20N OS :Windows XP Professional |
グラフィックスカードにATI Radeon HD 4670を使用したのには訳がある。ポイントは、PCI Express補助電源を使わずに最大電力を消費するモデルだからだ。できれば、GeForce 9800 GTの省電力版を使いたいところだったが、入手できなかったため、ATI Radeon HD 4670(以下、HD 4670)を使用した次第だ。なおPCI Expressが1スロットで供給できる最大電力は75W、HD 4670の最大TDPは59Wだ。