エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.13
2009.07.28 更新
文:GDM編集部
CPUクーラー「V8」の立ち位置を解りやすくするために、トップおよびリアの各排気ファンを取り外したところ。見るからに良好そうなエアフロー環境が提供されている事が解る。さて、見た目と実際とのギャップは存在するのであろうか |
「HAF 922」一番の見せ場(?)と言えるリア上部のエアフローを計測してみる。
この部分は、CPUクーラーの120mmファン、トップの200mm排気ファン、リアの120mm排気ファンの計3つのファンが集合している。
数年前から電源ユニットをボトムレイアウトにするPCケースが出始め、今や“旧”電源ユニット搭載部は「HAF 922」のようにL字配列で排気ファンがレイアウトされるようになった。メーカーの売り文句としては「レギュレーターやメモリの熱をも排出できる理想的なレイアウト」とされる一番の見せ所で、上昇する熱が一気にトップおよびリアファンで排出されるイメージとなっている。では「HAF 922」「V8」の組み合わせで各ポイントの風量を計測してみる。
計測箇所 | 風量 | 計測箇所 | 風量 |
①「V8」吸気部 | 0.9m/sec | ②「V8」排気部 | 1.3m/sec |
③「V8」排気側面部 | 2.7m/sec | ④120mmリア吸気部 | 1.3m/sec |
⑤120mmリア排気部 | 2.0m/sec | ⑥200mmトップ吸気部 | 1.3m/sec |
⑦200mmトップ排気部 | 2.0m/sec |
吸気風量よりも排気風量の数値が大きい結果は当たり前として、ほぼ想像通りのエアフローレイアウトが完成されている。当たり前すぎて面白くないと思いきや、CPUクーラーで少々想定外な結果が出た。
「V8」はベース部より8本のヒートパイプで支持された4ブロックに分割されたアルミニウムフィンで構成されている。側面外側に“サブフィン”が搭載されており、放熱面積を拡大させようとしているのだが、これがエアフローの方向を微妙に変化させている。
吸気部①はどの箇所もほぼ同じ数値であったが、排気になると③の箇所で②の箇所を上回る風量が計測できた。これは手をかざしてもハッキリと解る程で、②の箇所にあるサブフィンがある種“壁”のような状況を作り上げるようで、内蔵の120mmファンからの排気エアがストレスの無い両側の③へすばやく逃げようとしている事が解る。
②のすぐ後ろにはリア120mmファンの④があり、③の下側の排熱を手助けし、さらに⑥の吸気にて上側③の排熱を手助けするようなイメージになっている。
これはサブフィンを持つ「V8」特有の現象と言るかもしれない。ただしこれが悪いというワケではなく、「V8」はCPUを冷却させる事に特化させた放熱面積の広い大型ヒートシンクデザインを採用しているが故の結果であり、後は好みの問題といった程度であろう。
ちなみに当然の事ながら「V8」のようなギミックの無いオーソドックスなサイドフローファンの場合は、吸気箇所④と⑤のストレートエアフローによって、⑥および⑦を経由することなく排熱できる事になる。
赤で囲んだ部分の“サブフィン”はCPUの放熱面積を拡大させ、高冷却を生み出す分、排気ファンのエアフローに微妙な変化を付けさせる結果になっているのだが、決してマイナス要因ではない |
なお、200mm口径も120mm口径も排気部の風量は実測値2.0m/secで同一という結果が出ている。これは回転数の違いに比例しており、考え方としては200mm口径の方が吸排気面積が広く、回転数が低い分静音にする事ができる為、やはり200mmオーバーのファンはPCケースに向いていると言えるのだろう。あとはもう一段階“イロモノ”的イメージを払拭させるべく汎用ファンが普通に流通すればなお良しというところだろう。
簡易風速計を用いたテストはなかなか興味深いものであった。冒頭でもお断りしているが、サイドパネルを開けた状態での計測は、通常稼働させる状態ではないため、必ずしも正確な数値が取れるわけではない。しかし敢えてこの方法を選んだのは、物理的に計測が難しいからに他ならない。
予算さえかければそれも可能となるのだが、簡易的な物でもそれをひとつの指標としてしまえば、今回のように解ることもあるというものである。
それはさておき。今回は高エアフローを謳う「HAF 922」をじっくりと見てきたわけだが、総括として最後に日本独自仕様となっている“前面、上面、背面で圧倒的なエアフローを確保しているため、グローバル仕様のメッシュサイドパネルをあえて外しました”(代理店製品情報抜粋)について言及しなくてはいけないだろう。
当初ここに大きな疑問と矛盾を感じていた。そもそも「HAF」とは“High Air Flow”が根幹にあるはずで、グローバル仕様の200mmファンまたは120mmファン2基が搭載できるサイドパネルこそがトータルセールスになるのが本当であろう。しかし“アクリルパネル仕様にする事により、ケース内部の音漏れを防ぎます”(同)とされ、冠されたネーミングとコンセプトがぼやけてしまう。
そもそも高冷却と背中合わせの関係に騒音値があり、いずれをも求めるにはある程度の妥協点が必要となる。その妥協点を国内仕様ではサイドパネルを塞ぐという選択としたワケだが、これまで1週間ほど「HAF 922」と向き合い、その結論としてこの選択は正解だったのではないかと思えてきている。
確かにアッパークラス・グラフィックカードの消費電力の高さを考えると、サイドパネルのファンは捨てがたい。しかし自作PCとはトータルバランスが最も重要であると思う。先ほどの“背中合わせの関係”も結局はバランスの問題ではないだろうか。
ここまで「HAF 922」をエアフロー中心に検証してきたが、ハードディスクの発熱を抑えるフロントファン、CPUクーラー部にL字配列されたトップ・リアファンは、これまでCoolerMasterがPCケースで培ってきたノウハウがきちんと形に現されている。またいずれも各々の役割を十分に果たし、現時点考え得る最上位クラスの環境を提供している事はお解り頂けたと思う。
理想的とも言えるこの状況で、側面からさらにエアフローを送り込む事により、それが悪影響を及ぼしてしまう可能性も考えられる。
確かにそれでも強制的に冷却が必要な場合がなきにしもあらずではあるにせよ、敢えて乱暴に言うならばグラフィックカードに搭載されるクーラーにその仕事を任せても良いのではないだろうか。
これぞ究極の妥協点のひとつだ。
おそらくはこれらを考慮し、日本国内仕様は、完成度の高いエアフローが実現されているモデルだからこそ、妥協点としての“メッシュパネルを敢えて外す”選択に出たのである。これは立派なバランス感覚ではないだろうか。
高エアフローを実現し、ゲームユーザーからオーバークロックユーザーまで、幅広く対応するCoolerMaster「HAF 922」は以上を踏まえ、お勧めできる1台であった。