エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.20
2009.10.23 更新
文:GDM編集部 松枝 清顕
Tony:“煙突効果”は、熱を効率的に逃がすための設計手法のひとつに過ぎません。私たちが主眼に置く設計目的は、より高い冷却性能を実現する事です。仮に将来のケースの設計において、このレイアウトを採用しなかったとしても、私たちは常に放熱効果を上げ、よりハイエンドなPCパーツの運用に対応できるよう、最善を尽くします。
Tony:これまでのところ、SilverStone社でのテスト並びにエンドユーザーからのフィードバックによれば、マザーボードを90度回転させて搭載することによる問題は発生していません。
Tony:優れたレイアウトをデザインするのは大変なことです。他の老舗ケースメーカーと比べて、我々SilverStoneのケースデザインは、いつも元になるデザインが無いところからスタートします。組み立て、防塵と静音、そしてEMI対策、ケーブルの取り回しおよび空間的な余裕などといった細部に配慮する必要がありました。
Tony:高い冷却性能・静音性能を要求すると共に、外観にもこだわるエンスージアストの方々に是非使って欲しいと思っています。
Tony:日本は住宅の室内スペースが狭く、それ故に小型なケースがよく売れる傾向があります。しかし大型タワーケース(フルタワーなど)の市場シェアもあります。
日本の美的感覚では、よりシンプルなデザインが好まれる傾向なので、「RAVEN 2」と、今後登場予定の新製品「FT02」や「GD04」等はきっと日本で成功するはずです。
Tony:SSDが素晴らしい性能を持っているとしても、依然として高価です。パワーユーザーが使う場合は通常多くても1台か2台ではないでしょうか。大容量ストレージが必要なら、従来のハードディスクを使う方がベストです。
より多くのSSDスロットを必要とするユーザーには、3.5インチベイ用マウンタを使用する事を提案します。また当分の間、3.5インチベイの数を減らす事は考えていません。
Tony:CPUの冷却に関して言えば、サイドフロー型のCPUクーラーが理想的です。しかし、サイドフロー型は、マザーボード上のコンポーネントの冷却にはあまり効果的ではありません。私たちケースメーカーのできる事として、マザーボード上のエアフローをスムーズにする方向で対応しようと考えています。
Tony:正圧エアフロー設計と煙突効果によって、「RAVEN 2」は冷却・静音・防塵の性能を高いバランスで確立する事ができました。サイドパネルに穴を開けなかった事で、アクリルウィンドウを通し、内部コンポーネントをすっきり見通すことができ、単に性能を追求するだけでなく、見た目の良さにもこだわりを持つエンスージアストの方々に満足していただけることでしょう。
「エルミタ的速攻撮って出しレビュー」は、なにも“速攻”に“撮って出し”するばかりではない。今回のようなPCケースの場合、そのエクステリアやディテールのみであればそれも可能だが、「RAVEN 2」のように非常に凝った作りと、その斬新な90度マザーボードレイアウトから全てが繋がるエアフローデザインなど、実際に幾度と無く稼働させる事で見えてくることが少なく無い。
今回は国内代理店であるマスタードシード株式会社のご厚意により、数週間(実はまもなく1カ月になろうとしている)実機を借り受けることができ、まるで自分で大枚を叩いたかのような感覚で「RAVEN 2」を傍らに過ごすことができた。
正直に言えば、90度レイアウトに関しては、それほどの期待感を持てなかった。どうしてもこれまでの常識であるスタイルを打ち破るマザーボードレイアウトに対し、感覚的にそれが受け入れられなかったのである。「斬新」とは、ともすれば「色モノ」的な目で見られがちであり、恐らくそのような印象がなかなか拭えなかったのだろう。
しかし実際に使ってみると、無機質であるはずのPCケースから、しっかりとした開発者のメッセージが聞こえてくるから不思議である。訝しげに見ていた90度マザーボードレイアウトは決してただの「斬新」という言葉では片づけられない、本当に理に適ったものであった。
このレイアウトを採用する事で、強力な3基のボトム吸気180mmファンに対し、垂直レイアウトとなる電源ユニットや、グラフィックスカード、そしてハードディスクには理想的なエアフローの道筋ができ、さらにヒートスプレッダ付きのメモリに対しても有効な風を送り込むことができた。さらにCPUクーラーに関しても、サイドフロータイプのモデルを使えば、より有効な冷却が可能となるだろう。非常に良いPCケースであった。
蛇足を承知で付け加えるならば、少々不気味な事を言うと、このスタイルはもしかすると悪名高き“BTXフォームファクタ”からヒントを得ているのではないだろうかとも思えてくる。もちろんスタイルは似ても似つかないと思われるだろう。しかしマザーボードに対してのエアフロー方向や、根本的な考え方の一部はそれに近いものがあると言えないだろうか。さらに言うならば、見事撃沈されたBTXは市場の反応とは裏腹に、その考え方は決して間違ったものでは無かった。
かなりの高確率でこの想像は外れる事は分かっているが、BTXはただの「斬新」から抜け出す事ができなかった。しかし「RAVEN 2」はただの「斬新」ではない。熱の上昇を考慮し、静音性を保ちながらも各コンポーネントの立場になって理想的なエアフロースタイルを完成させている。
開発チームのTony Ou氏は、このスタイルはただの設計手法のひとつに過ぎないと断言している。ではこの他に、どんなスタイルができるのだろうか。そこはSilverStoneだ。これからもただの「斬新」など作らないだろう。