絵踏一のKeyboard一点突破 Vol.2
2013.01.01 更新
文:GDM編集部 絵踏 一
DELL「MODEL 101」 発売時期:1980年代後半 |
「ALPS」の刻印が刻まれたメカニカルスイッチ“ALPS軸”。最盛期は世界のメカニカルスイッチ市場のほとんどを支配していた |
まずはこのDELL「MODEL 101」にも採用されている、アルプススイッチについて軽く触れておきたい。そもそもアルプススイッチとは、その名の通りアルプス電気株式会社(本社:東京都大田区)製のキーボードスイッチのこと。キャリアの長い人なら必ず一度は触れたことがあるはずのメカニカルスイッチで、“ALPS軸”と通称されることもある。生産当時の国内外における評価や、キーボードのOEM生産におけるシェアは極めて高く、従来メカニカルスイッチの権威といえばアルプススイッチを指していた。
スイッチのラインナップが豊富なことも特徴で、ガチャガチャという打鍵音が懐かしい白軸を始め、黒軸、青軸、オレンジ軸、クリーム軸、ピンク軸といったタクタイルスイッチや、緑軸や黄軸などのリニアスイッチと、とにかく種類の多さにも驚かされる。
キーボードスイッチの生産を1966年から開始し、多数の特許技術を保有していたアルプス電気。しかし2000年代に近付くにつれフェードアウトし、現在は生産を行なっていない |
残念なことに現在同社はキーボードスイッチの生産を行なっていないものの、フルコピーした互換軸や内部機構を簡素化した簡易軸など、今でも世界中で流通する類似のスイッチは枚挙に暇がない。もちろん、こうした模倣品の流通やコストの問題なども同社のスイッチやキーボードが姿を消した理由の一つに違いない。しかし今ではCherryスイッチが席巻しているメカニカルキーボードの世界に、ほんの少し前まで国産のスイッチが君臨していたというのは誇らしいことだ。
筋目正しい101キー英語配列のDELL「MODEL 101」。“BigFoot”と通称される大型のメカニカルキーボードだ |
かなり大振りな筐体をもつDELL「MODEL 101」は、好事家たちの間で“BigFoot”というニックネームで呼ばれているシリーズ。アルプスでOEM生産されたキーボードで、DELL以外にもSilicon Graphics International(SGI)や東芝、シャープなど国内外を問わず多数のメーカーに採用されている。なるほどBigFootとは言い得て妙だが、どうもこの呼称は日本限定のものらしいので注意が必要。
そして左上のロゴマークにお気付きだろうか。現在のDELL社のものとは異なる旧タイプのデザインで、俗にこのロゴを戴くモデルはDELLの“旧ロゴ”などと呼ばれて区別されている。時代的にも最初期に生産されたモデルにあたり、成型精度や材質もコスト削減の影響を受けた後期モデルに比べて格段に贅沢。スイッチにも底打ち感絶妙のALPSピンク軸が採用され、キーボードとしての完成度は極めて高い。
製造時期がしのばれる旧タイプのDELL社ロゴマーク。大柄な筐体と好対照な線の細さだが、これが意外にしっくりくるのだ |
なお、FCC IDを確認したところ、登録は90年12月。初期モデルの中でも比較的後に生産された個体のようだ。コネクタ形状はPS/2のため、現行のマザーボードでそのまま使用できるのは嬉しい。ちなみにこの個体のモデル名は「MODEL 101」なのだが、DELL社向けに生産されたシリーズは「AT101」というモデル名の方が一般的。実際所有する他2台の“旧ロゴ”も「AT101」だったものの、今回は一番状態がよかったこの「MODEL 101」をチョイスするに至った次第だ。