エルミタ的業界インタビュー「オピニオン」 Vol.15

躍進のキーマンに聞く
CORSAIR製PCケース人気の理由

2013.05.10 更新

文：GDM編集部 Tawashi / 絵踏一

Bertrand氏：
　おっしゃる通り弊社はDRAM専門のメーカーだったのですが、これらの市場や販売価格は非常に不安定です。CORSAIRとしてはビジネスをもっと安定させる必要があった。そこでプロダクトラインナップを増やしてきたというのが一番の理由です。
　また、DRAMを販売しているお客様と電源ユニットやPCケースを買うお客様は同じ市場であるというのも理由のひとつです。関連製品ですから展開もし易かったというワケですね。
　さらに大きな理由として挙げられるのが、CORSAIRスタッフの多くが自作PCのエンスージアストだという点です。当然、我々がPCケースを手掛ける前は他社のPCケースを使っていたのですが、あるとき「自分達が使うのならどんなケースがよいか」という話になったのです。
編集部：
　そんな単純な理由からですか？
Bertrand氏：
　ええ。自分が使うPCケースはこうしたいというコンセプトの集大成として完成したのが、実は「800D」なのです。CORSAIRケースビジネスの原点はまさにそこがスタートですね。

CORSAIR製PCケースの記念すべき第1弾モデル「Obsidian Series 800D」。スタッフ自らが使ってみたいPCケースをテーマに製品化されたという。CORSAIRのPCケースビジネスの原点となるモデルだ

編集部：
　そんなCORSAIR製PCケースですが、日本における売れ行きは好調です。大きな要因はどのあたりと考えていますか。
Bertrand氏：
　どのPCケースにも共通ですが、重要な点として、例えば裏配線ができるケーブルマネージメントの採用やパーツの組み込みが容易であるといった点。あとは見過ごしがちな細かい箇所のクオリティに十分配慮するといったところも重視しています。このような点が日本のユーザーに受け入れられたと考えています。
編集部：
　PCケースの設計や開発にあたって重視している点などお聞かせください。
Bertrand氏：
　事前にターゲットを絞り込みます。ゲーミング向けなのか、静音性重視なのかというようなことですね。次に「どんなケースが欲しいのか」といった企画はもちろん、その後の開発をアメリカにある本社のチームが行います。ただ弊社のPCケースというカテゴリーにおいては、それぞれの地域や国で売れるモデルが異なる場合が多いのです。そこで園部氏のような各国にいる担当者の意見を集約し、どのような製品が好まれるのかをまず検討します。
　さらにインダストリアルデザインですね。これはPCケースだけではなく、車産業や家電業界など様々なモノがどういったトレンドで推移しているのか。それらの動きも各地域で異なっていたりしますので、そこも考慮しながら最終的なプロダクトを決定していきます。

園部英生氏（カントリーマネージャー）
国内メディアへの対応はもちろん、日本市場におけるCORSAIRブランドの発展に尽力している。今回のインタビューでは通訳も担当。愛用のPCケースは日本でもヒットしたミリタリーデザイン採用の「Vengeance Series C70」

正直、ここまで売れるとは思っていなかった水冷クーラー

編集部：
　オールインワンタイプの水冷ユニットについても聞かねばなりません。CORSAIRの製品が先駆者的な役割を果たしたのは明白ですが、PCケース同様なぜ市場へ参入したのか。また、それがどうして水冷だったのでしょうか。
Bertrand氏：
　PCケースと状況は似ています。先ほどお話しした通り、スタッフの多くが自作PCのエンスージアストのため、個人で水冷パーツを使っている人が多くいました。ただ、これらの製品は取り扱いや組み合わせという点において少々複雑で、自作初心者を含め皆が楽しめるものではありませんでした。「それじゃぁこれをパッケージ化して、パーツ類を一体化したらいいのではないか」というのが始まりです。その後完成した記念すべき第1弾モデルが「CWCH50」ですね。

水冷ブームの火付け役となった第1弾モデル「CWCH50」。1万円を切るという価格設定もさることながら、信頼性の向上により“水漏れ”の懸念が払拭されたという点は大きかった。誰もが使える水冷ユニットとして一気に導入へのハードルを下げた自作界の功労者的モデル

編集部：
　あれはまさに、当時爆発的と言っていいヒット商品となりました。ここまで大成功となると思っていましたか。
Bertrand氏：
　正直言って「NO」です（笑）。ですが、成功の理由は2つあると思っています。1つはここ2年くらいだと思いますが、コストも含めて水冷クーラーのパフォーマンスと空冷クーラーのパフォーマンスにほとんど違いがないばかりか、場合によっては水冷が上回る性能を発揮し始めたという点。
　もうひとつは“水漏れ”の心配がないという点です。初代「CWCH50」や「CWCH70」は非常に多くの出荷数を誇りましたが、“水漏れ”についての不安はありませんでした。ユーザーに与えた安心感は大きく、簡易水冷クーラーという市場を押し上げる大きな理由のひとつになったと思っています。



	ラジエターサイズの違いやウォーターポンプ、搭載ファンなどの違いによりさまざまなモデルが用意されているCORSAIRのHYDROシリーズ。今や他社からも数え切れないほどの水冷クーラーが販売されているが、やはりその人気は頭ひとつリードしている（最上段：左「H60」/右「H80i」、中段：左「H90」/右「H100i」、下段：左「H110」）