エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.825
2020.02.02 更新
文:エルミタージュ秋葉原編集部 絵踏 一/撮影:松枝 清顕
オーバークロックによるパフォーマンスアップの恩恵を確認したところで、そのトレードオフとなる要素を確認しておこう。まずは「CINEBENCH R20」を動作させた際に、どの程度発熱が増加していたのか、「HWMonitor」で計測を行った。
定格動作時の挙動はまさに理想的な数値だが、オーバークロックによる影響はかなり大きい。高負荷時には約30℃アップとなる91℃に達し、無視できない発熱が発生していることが分かる。もっとも「Ryzen Threadripper 3970X」の最大温度は公称で95℃のため、まだ想定の範囲内に押さえ込めているといった印象だ。
今回の検証では、Ryzen Threadripper専用の水冷クーラーである、360mmラジエターを備えたENERMAX「LIQTECH TR4 II」を使用している。オーバークロックを試す際は、相応の冷却能力をもつクーラーが必須であることが分かるだろう。
最後は、先ほど同様にベンチマークテスト中における消費電力の変化をチェックしておこう。「CINEBENCH R20」のマルチコアテストを動作させた際、オーバークロックで消費電力がどれほど増加するのか。ワットチェッカーを使用して計測を行った。
じっくりと数値を確かめるまでもなく、オーバークロックにより、消費電力はかなりインパクトのある増え方をマークしていることが理解できる。さすが論理64コアのCPUだけはあり、高負荷時の消費電力増は261W。まったく別物なシステムに変貌してしまった。HEDTプラットフォームであれば当然のことながら、特にオーバークロックを考えている場合は、想定より大容量な電源ユニットをチョイスしておいた方がよさそうだ。
さすがHEDTプラットフォームの製品だけはあり、AMD TRX40マザーボードのラインナップは限定的だ。それだけに、どれもが各メーカーにより厳選された自信作と言えるワケだが、中でも「TRX40 Taichi」の完成度は際立っている。
価格的にはミドルハイに位置するモデルながら、破格の冷却機構をもつ強靭な電源回路に始まって、拡張カードによるM.2 SSDの大量搭載能力、2.5ギガビットLANとWi-Fi 6による強力なネットワークに至るまで。あらゆる機能がハイレベルに網羅されている。一つ一つの機能では上をいく製品があるかもしれないが、パッケージとしてのまとまりでは、他の追随を許さない。もとよりコストパフォーマンスを云々するカテゴリではないものの、なんとも“お買い得感”のある製品に仕上がっている。
そして極めつけは、これらのパッケージがATXフォームファクタに収まっている点だ。AMD TRX40マザーボードのラインナップを見渡すと、ハイクラスの有力製品にはE-ATXモデルが多い。その点で「TRX40 Taichi」なら、品質も搭載機能も同クラスで、なおかつ対応のPCケースも選ばないという強みがある。
第3世代Ryzen Threadripperのオーバークロックも余裕でこなし、高水準にまとまった機能をもつ「TRX40 Taichi」。新たに投入される「Ryzen Threadripper 3990X」との組み合わせでも、(BIOSの更新こそ必要ながら)安定した動作が見込めることは疑いない。折しも最上位CPUのデビューが迫ったタイミングにて、あらためてその魅力を実感するに至った。
協力:ASRock Incorporation