エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.1016
2021.06.28 更新
文:池西 樹(検証)/文・撮影:松枝 清顕(解説)
ついうっかり”Arctic Cooling”と書きそうになる…。自作歴の長いユーザーなら、かつて汎用VGAクーラーのトップリーダー的存在だったArcticをよくご存じだろう。その昔、グラフィックスカードに搭載されるVGAクーラーは、いわゆるリファレンスであったり、せいぜいCooler MasterのOEM品が搭載されるに留められていた。サードパーティーがオリジナルで設計するという概念が希薄で、今ほど注目される存在では無かった。
しかし時は静音ブーム。多くのグラフィックスカードが採用する、小型冷却ファンを高回転でぶん回すといった強引な冷却ではガマンならず、保証対象外になる事を覚悟の上で汎用VGAクーラーに付け替える自作派が増えた。そんな(当時)ニッチな需要に目を付けたのが、Arcticだった。
「COMPUTEX TAIPEI 2011」のArctic Coolingブースで発表された「Accelero XTREME Plus II」。約92mm口径ファンを3基搭載し、なんと40種類のグラフィックスカードをサポート。現在とは異なるチャレンジ精神みなぎる自作パーツに、涙を禁じ得ない |
大口径ファンによる低回転で大風量を生み出すことで「静音と高冷却」が得られ、VGAクーラーの換装は自作PCの定番となり、ZALMANやCooler Master(今度はコンシューマ向けに)が後を追うことになる。だが、Arcticのシェアは圧倒的で、新型GPUのデビューに合わせ、汎用VGAクーラーを数多く市場に送り出した。Arcticが絶大な支持を得た最大の理由は、リファレンス設計に見合うヒートシンクデザインと、取り付けネジ穴(汎用性)。そしてVRAM用ヒートシンクが必ずセットになっており、最新グラフィックスカードの冷却をフルにカバーしていたところだろう。おまけにArcticは信頼性が高く、世界中の自作派が愛用。不思議と悪い評判を耳にする事が無かった。製品の善し悪しはさることながら、自己責任で換装する行為とあって、結果に文句を言う事は野暮だという暗黙のルールは今よりも明確にあったように思う。
極めて汎用性が高かったファンレスVGAクーラー「Accelero S1 PLUS」。今でも編集部の機材置き場で大切に”放置”されている |
そしていつしか各メーカーが競って独自設計のVGAクーラーを設計。個性を際立たせる最大のアピールポイントに据えられるようになり、汎用VGAクーラーの時代は終わった。Arcticは空冷CPUクーラーや汎用ケースファン、さらにマウスやヘッドセットなど、冷却機器とは異なる周辺機器で模索する時代が続く。
いつになく前置きが長くなったが、ARCTIC「Liquid Freezer II – 360」に話題を変えよう。今回の評価サンプルは、株式会社サイズ(本社:千葉県松戸市)より編集部に届けられた。同社が正式にARCTIC製品の取り扱いを発表したのは2021年4月28日のこと。複数の空冷クーラーと共に、「Liquid Freezer II – 360」も5月12日より出荷が開始されている。なお手元にある固体は「Rev.4」だ。
ARCTIC「Liquid Freezer II – 360」(型番:ACFRE00068B) 市場想定売価税込17,800円(2021年5月12日発売) 製品情報(ARCTIC) |
実はその以前から、一部秋葉原のPCパーツショップでは販売されており、「Liquid Freezer II」シリーズ自体のデビューは2019年10月8日まで遡る。なお国内市場では240mmサイズラジエター(型番:ACFRE00046B/市場想定売価税込13,880円)と、280mmサイズラジエター(型番:ACFRE00066B/市場想定売価税込15,800円)、さらに検証を行う360mmサイズ(型番:ACFRE00068B)に加え、2020年11月4日には420mmサイズがラインナップに加えられている。
対応ソケットはIntel LGA 115x/2011-3/2066(Square ILM)、AMD Socket AM4。外装パッケージはいかにも冷却機器を想起させるカラーリングを採用。いつの間にか変更されていたARCTICのロゴは、未だに見慣れない。なお外形寸法は実測で幅約415mm、奥行き約140mm、高さ約170mmだった