エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.1016
2021.06.28 更新
文:池西 樹(検証)/文・撮影:松枝 清顕(解説)
最後にCCD 1基の構成ながらTDPが105Wに設定され、Core i9-11900Kと同様、熱処理がとても難しいことで知られるRyzen 7 5800Xでも冷却性能をチェックしておこう。なおテストはRyzen 9 5950Xと全く同じ条件にて実施している。
CCDが1基ながらTDPが105Wに設定されているRyzen 7 5800X。ブースト時のクロックも高めになるため熱処理がとても難しいCPUとして知られている |
「OCCT 8.2.1」では途中何度か75℃以上まで温度が上昇するが、それ以外はおおむね65℃前後で推移する。ただし「CINEBENCH R23」では、CPUが許容する最大温度90℃まで上昇し、やはりRyzen 9 5950Xよりは熱処理は難しいことが分かる。とはいえ、CPUクロックは「OCCT 8.2.1」で約4.60GHz、「CINEBENCH R23」でも約4.50GHzまで上昇しており、ブースト機能はしっかりと有効化されている。
「OCCT 8.2.1」実行時のファン回転数は途中何度か回転数が急上昇することはあるものの、その他は1,470rpm前後で推移。ノイズレベルも34.1dBAとかなり低く抑えられていた。また「CINEBENCH R23」は1,700rpm前後でほぼフル回転に近い状態。それでもノイズレベルは36.3dBAまでしか上がらず、「Liquid Freezer II – 360」で使用されている「P」シリーズファンの静音性は優秀だ。
テストセッションのラストはウォーターブロック部分に実装されている、MOSFET冷却用の40mm口径ファンの効果を確認していこう。CPUはCore i9-11900K(Adaptive Boost有効)、ストレステストは「OCCT 8.2.1:CPU:データセット大」を使い、40mm口径ファンを回転させた場合と、電源コネクタを外して停止した場合でMOSFETの温度の温度がどう変わるのか計測した。さらにヒートシンク部分の温度もサーモグラフィを使い取得している。
まずMOSFETの温度を確認するとファン停止時は、テストが終わるまで温度上昇が止まらず、テスト終了直前の30分後には69.5℃まで上昇。一方、ファン回転時はカーブが緩やかになり、温度上昇もテスト後約10分で頭打ち。最高温度は62.5℃で、ファン停止時より7℃も低くなった。
ファン停止時:アイドル時のサーモグラフィ | ファン停止時:高負荷時のサーモグラフィ |
ファン回転時:アイドル時のサーモグラフィ | ファン回転時:高負荷時のサーモグラフィ |
続いてサーモグラフィの結果を確認すると、ファン停止時は特にCPUソケット左側の電源回路の温度が高く約70℃を記録。またヒートシンク中央の温度は上側が63.7℃、左側が64℃まで上昇している。しかし、ファン回転時はCPUソケット左側の電源回路の温度は60℃以下まで低下。さらにヒートシンク中央の温度は上側が48.7℃、左側が51.3℃と10℃以上も低下した。
ここまでの結果を見る限り、MOSFET冷却ファンの効果はかなり大きい。特にオーバークロックや定格駆動でもAdaptive Boostを有効にする場合には、「Liquid Freezer II」シリーズを選択することで電源回路の負担を軽減することができる。
「Liquid Freezer II – 360」は、株式会社サイズが正式に取り扱いを開始した「Liquid Freezer II」シリーズ中、最上位モデルにあたる。そして38mm厚で360mmサイズの大判ラジエターの威力は遺憾なく発揮され、現在流通するオールインワン型水冷ユニットの中でも、トップクラスの冷却性能を見せつけた。発光パーツが無いだけで、これほど無骨に見えるのかと思いつつ、たんたんと仕事をやってのける様はなんともスマートで、空冷で培った自作PCパーツの老舗ならではの安心感が漂う。
ことのついでにARCTICの製品サイトをくまなく確認すると、時節柄ARCTICブランドのマスクが掲載されている事はさておき、国内市場でも販売された汎用VGAクーラーも掲載されていた。対応はGeForce RTX 2080までながら、冷却ファンの中央には最新ロゴがプリントされており、未だアップデートされている事を窺わせる。すでに需要のピークは過ぎているものの、今でも多くの熱心な自作派から、ARTCTIC=汎用VGAクーラーのイメージは抜け切れていないはずだ。
ARCTICの汎用VGAクーラーが一時市場を独占できたのは、熱源となるGPUだけでなく、周辺のチップまでを考慮。大小さまざまな小型ヒートシンクが付属し、トータルで冷却を行おうとする姿勢が信頼を高めたひとつの要因だろう。例えメーカー保証を失っても、換装するだけの価値があったのだ。
そして今回「Liquid Freezer II – 360」の検証を行ったが、GPUからCPUへと冷却する対象こそ異なるものの、熱源だけでなく周辺までを含めたトータルな冷却を目指す姿勢に共通点を見た。第2冷却装置:VRM冷却用ファンに、ARCTIC製汎用VGAクーラーの思想がしっかりと受け継がれている。
協力:株式会社サイズ
ARCTIC