エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.1020
2021.07.12 更新
文:池西 樹(検証)/文・撮影:松枝 清顕(解説)
Noctuaは正直だ。「NH-P1」の製品サイトには、“オーバークロックや高温かつ負荷が高くなるCPUには適さない”旨が記されている。また冒頭でも触れたように、対応TDPの表記は無く、代わりに独自指標とも言えるNoctua Standardized Performance Rating(NSPR)が明記されていた。
曰く、熱設計電力を数値化したTDPは、CPUの複雑化によりユーザーにとって分かりにくいものであり、TDP評価がどのように出されているのか不明確なことがある。一方でNoctua Standardized Performance Rating(NSPR)は、プラットフォームに依存しない客観的データであり、独自の算定方法によりCPUクーラーのパフォーマンスを数値化。ひと目で分かるようにした。
これについて説明すると本稿の3分の1は軽く消費してしまうため、要点のみとするが、冷却に対してのNoctuaの取り組みは、長文ながら一読の価値は十分にあると申し上げておこう。(Noctua Standardized Performance Ratingの解説ページ)
ちなみに今回検証する「NH-P1」は42で、最も数値が高いのはNH-D15(chromax.black / SE-AM4)の183といった具合。執筆時(2021年7月)計21モデルのNSPRが開示されている。
2021年5月に検証を行ったNoctua「NH-U12S redux」のNSPRは129とされる。Noctuaの製品群で見るとおよそミドルレンジといったところだろう |
前置きが長くなったが、ここからは「NH-P1」をパッケージから大切に取り出し、外観スタイルから検証を開始する。CPUクーラーを知らない人には、いったい何に見えるだろう。日常の生活ではまず触れないものだけに、想像すらできないかもしれない。だがアルミニウム素材特有の質感をはじめ、緻密なカットとエッジ処理、さらに整然としたヒートパイプから、美しい工作物には見えるはずだ。
冷却ファンがないため、プラスチック部品が一切使われていない構造体。見るからに重量がありそうなパッシブヒートシンク「NH-P1」が今回の主役だ |
外形寸法は幅154mm、奥行き152mm、高さ158mmで、重量は1,180g。これでも設計の見直しから、プロトタイプより若干スケールダウンされている |
受熱ベースプレートとヒートパイプを右寄りにオフセット。ボディはメモリスロットを避け、バックパネル側に張り出すデザインが採用されている |
「NH-P1」は純然たるパッシブヒートシンクだ。オプションで冷却ファンは実装できるものの、直接的エアフローの力を借りず、十分に冷却できるよう設計されている。
最大のポイントは、一般的なCPUクーラーではまず見かけない、肉厚のアルミニウム製放熱フィンの存在だろう。気流の抵抗とバランスから、素材の質量は計算されており、通常のヒートシンクに比べフィン同士の間隔(ピッチ)も広くとられている。自然対流による冷却=パッシブヒートシンクには重要かつ最も最適なカタチが「NH-P1」というワケだ。
実際に放熱フィンの厚さを測ると約1.5mmで、放熱フィン同士の間隔は約8.5mmとられている。なおアルミニウム製放熱フィンの数は13枚で、CPUクーラーとしては極めて少ない。Noctuaによると、一般的なCPUクーラーとは冷やす原理が大きく異なり、自然対流のみを利用し、低~中程度の放熱でもハイエンドCPUを冷却するためには、このカタチが正解であるらしい。
放熱フィンを繋ぐジョイントは、まるで鎖のよう。細部まで神経質なまでの作りは実にNoctuaらしい |
「COMPUTEX TAIPEI 2019」で披露された時点で、かなりの開発時間が掛かっていることは容易に想像できる。そこから製品化までさらに2年を要しているところに、Noctuaの苦労が窺える。さらに開発時点のCPUは、現在の製造プロセスや複雑な機能を搭載しない発熱体であった。世代が変わり進化した現在のCPUにも通用する冷却機器の製品化は、一筋縄ではいかなかっただろう。