エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.1088
2021.12.23 更新
文:編集部 絵踏 一/撮影:松枝 清顕
ここまで優れたパフォーマンスを見せてくれた「Silent-Master NEO Z690/D4」だが、本来のモットーは“究極の静音性”。はたして高負荷時はどのような挙動を示していたのか、長時間のストレステスト「CINEBENCH R23:Minimum Test Duration:30 minutes」を実行した際のデータを見ていこう。
まず気が付くのは、CPUクロック(Pコアクロック)が1,400MHz~4,900MHzの範囲でかなり頻繁に変動していること。これはBIOSにて「Current Long Duration Package Power Limit」(長時間電力制御)の数値が125Wに設定されているためだ。
本来は「Current Short Duration Package Power Limit」とともに241Wに設定されているところ、Intelの推奨する規定数値の下限(125W)へとチューニング。長時間の連続した高負荷動作時に動作クロックを適宜下げることで、CPU温度も概ね80℃台半ばに留めている。
その結果、騒音値は「CINEBENCH」実行時で41.1dBA、より負荷の大きな「3DMark」実行時でも43.1dBAに収まった。これは図書館や静かな住宅街程度の騒音レベルであり、ベンチマーク中も動作音はほとんど耳に届かない。空冷環境ながら、最適なパーツチョイスと身の丈にあった設定により、Core i9-12900Kの静音動作を実現しているというわけだ。
そしてグラフィックスカードの「GeForce RTX 3070 VENTUS 2X 8G OC LHR」が搭載するデュアルファンクーラーは、回転数2,500rpm程度で動作。Hot Spot温度はやや高めながら、GPU温度80℃前後を維持しつつ可能な限り騒音を抑えている。静音性にフォーカスしたスマートな挙動と言えるだろう。
最後にベンチマーク中における「Silent-Master NEO Z690/D4」の消費電力を確認し、動作検証を締めくくろう。ストレステストには「3DMark Time Spy Extreme Stress Test」を使用し、実行中の最高値を高負荷時、起動後10分間何もせず放置した状態をアイドル時として計測を行っている。
高負荷時はさすがに300Wを超える消費電力をマークしたが、システムが搭載する電源ユニットは860Wであり、まだまだ余裕を感じさせてくれる。そもそもサイコムのカスタマイズメニューでは無理な電源容量を選択することはシステム上不可能なため、不足するような構成になることはない。
久しぶりに現れたモンスターCPU・Core i9-12900Kを相手に回して、空冷による静音化を実現する。サイコム担当者によれば、「Silent-Master NEO Z690/D4」の製品化は歴代シリーズの中でも、かなり難しいミッションだったとのこと。本来360mmラジエター水冷の使用が推奨されるような爆熱CPUとあって、さすがのNoctua製クーラーでもパワーリミットを開放した状態では発熱を持て余してしまう。いきおいファンの回転数も上がり、有効な対策がなければ“究極の静音性”というコンセプトも破綻してしまっただろう。
出来上がった製品は動作検証でも十分なパフォーマンスを示しつつ、長い歴史をもつ「Silent-Master」シリーズの名に恥じない静音性を併せ持っていた。Noctua製クーラーの底力を感じる一方で、うまい落とし所が見つかったのはサイコムの絶妙なアレンジがあってこそ。単に静音仕様のPCケースに構成パーツを詰め込んで終わり、という見せかけだけの静音マシンとは一線を画する完成度だ。
もちろんCPUのパフォーマンスを制限すること自体に、抵抗を覚える向きも一部にはあるだろう。しかしそれによる性能の落ち込みは、何よりも静音性を重視するユーザーには許容できる範囲に違いない。騒音を気にせず最速×爆熱CPUを選べるなら、十二分に価値のあるトレードオフと言える。
協力:株式会社サイコム