エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.1107
2022.02.18 更新
文:撮影・編集部 松枝 清顕
CPUの冷却には、オールインワン型水冷ユニット「Lumen S28 RGB」(型番:FD-W-L1-S2802)を用意した。2021年9月3日より販売が開始され、360mmサイズ「Lumen S36 RGB」(型番:FD-W-L1-S3602)は詳細検証済み。製品の特徴は記事に譲るとして、今回は冷却ファンに「Aspect 14 RGB PWM」を2基搭載する、280mmサイズラジエターをボトム部へマウントさせた。
なお本稿でラジエターをボトム部にマウントしているのは、フロント標準搭載ファンを生かすための選択。搭載箇所に賛否両論がある事は承知しているが、Lumenシリーズのポンプはラジエターに内蔵されている。
まず組み慣れている人なら、搭載作業は難なく終えることができるだろう。経験の浅い人なら、配線で戸惑うかもしれない。本来配線はオールインワン型水冷ユニット側の領域なので善し悪しを言うところではないが、5V ARGB cableやデイジーチェーンで接続できるファンケーブルなど、裏配線を意識すると取り回しが多少し辛かった。
ケーブルマネジメント機構は考慮されているものの、使い勝手は必ずしも良好とは言えず、Nexus 9P Slim Fan Hubが前方にあるだけに、ラジエターに搭載する後方の冷却ファンに対しては、それなりに距離がある。キレイに仕上げようとすればなおさらで、奇しくもミドルタワーPCケースでは一般的なボトムカバーの便利さを再認識させられた。
組み込み後の動作テストの様子。ボトム面に固定したAspect 14 RGB PWMファンが、水冷ヘッドカバーのイルミネーションと同期して鮮やかに発光している様が確認できる |
グラフィックスカードの有効スペースは、フロントにDynamic X2 GP-18 PWM(180mm径/38mm厚)が装着された状態で、公称330mm。コンパクトな割にハイエンドクラスのグラフィックスカードも対象内だが、構成次第ではそうもいかない。当初、長さ318.5mm(幅140.1mm、厚さ5.78mm/2.9スロット)のASUS「ROG-STRIX RTX3080-O10G-GAMING」を用意して搭載を試みたところ、ラジエターのチューブが搭載スペースの一部を占有して搭載ができない。実際に有効スペースを計測してみると、300mm以上のグラフィックスカードは、チューブにぶつかる事が分かった。
そこで手持ちのMSI「GeForce RTX 2060 GAMING Z 6G」にチェンジ。NVIDIA GeForceの2000番台だが、トルクスファン3.0をデュアル搭載するVGAクーラー「Twin Frozr 7」を実装。カード長は247mm(幅129mm、厚さ52mm)のほどよいサイズで、補助電源コネクタが8pin x1という点もコンパクト設計のPCケースには都合がいい。
搭載手順は解説するまでもなく、背面をハンドスクリューで固定するだけ。カード長も有効スペースの最大値よりも約50mm短いとあって、計測するまでもなく余裕を持って固定ができた。検証での構成では、ボトム部にLumen S28 RGBの280mmサイズラジエター(25mm厚冷却ファン+27mm厚ラジエター)が搭載されているが、GeForce RTX 2060 GAMING Z 6Gまでは実測で約35mmほどの空間が確保できた。
付属のGPUサポートブラケットは、最低カード長253mm以上が必要。検証用カードは247mmなので、VGAクーラーにアームが届かずに使用できなかった。そもそも長尺重量級のカードを支える目的だけに、約250mm程度のカードには不要という事だろう |
高エアフロー筐体に力を入れているFractal Design。「Meshify」「Torrent」はいずれも自作派に受け入れられた、紛れもない成功作だ。そして今回の派生型であるTorrent Compactは、もうひとつ市場のニーズに踏み込んだ意欲作。ただしいろいろな思いが残るPCケースだった。
Torrent Compactの意図は十分理解できるし、評判のTorrentの良さをいかに残して仕立て直すかが課題であっただろう。Torrentを縮尺通り正確に小型化させた(ような)外観は、既に人気の兄貴分の成功により異論はない。そして内部構造を見ると、コンパクトであることで削られた部分はあるものの、フロント180mmファン2基の標準装備だけは譲らず、他社にない高エアフローの維持に成功した。仮に140mmまたは120mmファン止まりだったら、単なる小型ATX筐体のひとつに埋もれてしまうだろう。ここにFractalの強い意志を読み取る事ができる。
一方で、小型筐体につきまとうトレードオフは評価を難しいものにしている。ストレージの収納力が制限されている点は仕方が無い。しかし、設計的に無理があるのか、特有の組みにくさは否めない。その象徴が20mmしか確保できていない裏配線スペースだ。Torrentの32mmを引き合いにしても仕方が無いが、縮小したからといってケーブルの太さや必要本数は大きく変わるワケではない。これが制限になって、裏配線スペースのケーブルマネジメントは、いつも以上に気を使うし、それなりのスキルも要求される。
オマケに内部容積が小さくなっただけに、ケーブルの逃げ場も限られてくる。PSUシュラウドも、2.5/3.5インチドライブトレイの使い方次第ではすぐに満杯になり、溢れたケーブルをどう始末するかは確実にストレスになる。これをチャレンジと置き換えて、ポジティブに向き合えるかは購入者次第と言ったところだろう。仮にMicroATX規格にしたところで、もろもろが解決するワケではない。あくまでATX規格という体型を変えることなく、小さく仕立て直したPCケースがTorrent Compactなのだ。
20mmの裏配線スペース。3台のSSDは未配線状態でこんな様子。仮組み状態で右サイドパネルが閉じられた事は1度も無かった。 |
仮にケーブルマネジメント問題を解決させるなら、最大のアピールポイントでもある高エアフローを生かすという方法もある。検証中180mmファン2基を高回転で動作させたところ、コンパクトだからこそ吹き抜ける風量と高い静圧は実感できた。これを生かさない手はなく、オールインワン型水冷ユニットではなく敢えて空冷を選択してはどうだろう。少なくとも接続すべきケーブルの本数は最小限に抑える事ができる。選択肢も多く、代替案としては悪くない。
なかなか課題の残る1台ではあったが、見るべきポイントは満載。総合点で判定するなら高得点である事は間違いない。ただし最後にひとつ付け加えたいのは、制限付きE-ATXは選択しない方が無難であること。確かに幅274mmの基板は搭載できるが、グロメット付きスルーホールに被り、ケーブルマネジメントがさらに悪化する。一筋縄ではいかないのが、Torrent Compactの持ち味と結論づけたい。
協力:Fractal Design
株式会社アスク