エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.1168
2022.07.12 更新
文:撮影・編集部 松枝 清顕
最後に、HAF 700 EVOの小粋な演出をご紹介しよう。検証開始早々に取り外してしまい、ここまで出番がなかったInfinity Mirror。これをどのように使うのかというと、30°まで角度が付くラジエーター/ファンブラケットの上部に装着することで、グラフィックスカード(水平マウント時)のVGAクーラーがミラーに映される。これを強化ガラス製左サイドパネルから眺める事ができるというギミックだ。
これをフロントパネル裏面に取り付ければ、サイドに固定したARGBファン付きラジエーターを映し出し、あたかも6基のイルミネーションファンが内蔵されているように見せる事もできる。鏡による単純な視覚的効果だが、人とは違った魅せるPCを構築したいなら、活用しない手はない。
ラジエーター/ファンブラケットへの固定は、中央の標準装備ファンと左右のDrive/Pump Bracketをはずし、Infinity Mirror背面の片側のみHDD screw(x2個)を装着。ゴムブッシュに挿し込むだけ |
そして本稿最後に触れておきたいのが、HAF 700 EVOの移動方法だ。とかく大型PCケースは組み込み後(または組み込み作業中)移動する作業は骨が折れる。実際に骨が折れそうなほどの重量だが、悪い事にボディに持ち上げるために掴める場所がなく、ボトム部を両手で持ち上げるしかない。だが唯一移動のアシストしてくれるのが、シャーシ側マザーボードトレイ前方上部のカット部だ。
シャーシ側天板がない状態までの利用となるが、ここをハンドル代わりに握り、本体を持ち上げる事ができる。腰を屈めずに腕の力だけで持ち上げ移動ができるため、検証中は非常に重宝した。歴代COSMOSのようにハンドルがあれば言う事はない。しかしHAF 700 EVOにはそれに変わるものがなく、組み込み後の設置やメンテナンス時など、かなりの重労働になるよく考えられたPCケースであることは間違いないが、唯一そこだけが筆者的にはマイナスポイントだった。
検証中、深刻な腰痛持ちの筆者を助けたのがシャーシ側マザーボードトレイ前方上部のカット部。本来ハンドルの役割ではないかもしれないが、握り持ちで移動させるにはここを活用するしか手はなかった |
HAFシリーズがデビューしたのは2008年。「HAF 932」は前面裏手の全てがドライブベイで、トップと左サイドパネルには230mmファンが搭載されていた。外形寸法は幅243mm、奥行き564mm、高さ560mmだからかなり巨大で、発売当時はライバルが見当たらず、世界中のマーケットで一躍人気モデルになった。
あれから14年を経て、未だに”Hi Air Flow”を必要とするユーザーに向け、新モデルを開発し続けている。継続は力なりとはよく言ったもので、たとえそれがニッチなターゲットに向けたプロダクトであったとしても、これまでの積み重ねによる熟成された新作は、確実に洗練された良品に仕上げられている。売価を考えれば爆発的に売れるものではないが、Cooler Masterの新たなフラグシップに相応しい堂々たるモデルだ。
複雑な内部構造については振り返らないが、外観デザイン、特にフロントパネルのエッジライトインテークブレードは”Hi Air Flow”とは全く関係がなく、ゼイタクにコストを掛けている点は意見が分かれるだろう。とは言え、恐らくは主に北米市場をターゲットにしたモデルだと考えれば合点がいく。HAF 700 EVOは車で言うところの小回りのきくBセグメントではなく、スケールの大きなアメ車的存在なのだ。ノーリミットなフルタワーPCケースはこうでなくちゃいけない。
協力:Cooler Master Technology