エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.1283
2023.05.03 更新
文:撮影・編集部 松枝 清顕
CPUの冷却として、オールインワン型水冷ユニットを搭載してみよう。Performance 1 FTはフロントパネル部に、最大420mmサイズラジエーターが搭載できる。ここは重要なポイントで、通常のミドルタワーPCケースに近く、さらに価格普及帯からそれほどズレていない製品における420mmサイズ対応品は選択肢が極端に少ない。この点を理由にPerformance 1 FTをチョイスする自作派は今後増えるだろう。
とは言え、フロントに30m厚の140mmファン3基が装備されていることから、検証ではAntec「Vortex 360 ARGB」を用意。最も利用されるであろうトップパネル部に360mmサイズラジエーターの搭載を試みた。
ちなみに、フロントパネル裏に420mmサイズラジエーターを設置する場合、ボトムカバー内前方にマウントされるケージタイプのシャドウベイユニットは、20mm後方のポジションに移動する必要がある。その場合、電源ユニットの搭載スペースが短縮(実測290mm→270mm)される事も頭に入れておこう。
同一メーカーである事も手伝って、Vortex 360 ARGBの収まりは良好。360mmサイズラジエーター(27mm厚)は前後に若干のストロークを残すほどのスペース的余裕があった |
前後には30mm厚ファンが標準装備。見慣れた25mm厚よりも張り出しの+5mmをハッキリ感じさせるものの、物理的に干渉する事はなかった |
Vortex 360 ARGB付属ネジによる固定。スリットタイプのネジ穴の段差に収まり、マグネット固定式ダストフィルターが凸凹する事はない |
組み込みセッションの最後に、グラフィックスカードを搭載してみよう。検証に用意したのは長さ304mm、幅137mm、厚さ61mmで3スロットを占有する「GeForce RTX 4090 Founders Edition」。そのパフォーマンスについては、詳細検証記事を是非ご一読頂きたい。
なお搭載済み電源ユニットSignature 1000 Platinumを使用するにあたり、オプションで販売中(税込3,300円)の12VHPWRケーブルを用意。変換コネクタを使わずに1本で接続は完了する。標準装備ではない点が残念だが、コストを掛けてもケーブルマネジメントの観点から圧倒的有利な専用ケーブルは、大いに導入する価値がある。
検証にあたりリンクスインターナショナルよりAntec「SIGNATURE」シリーズ用の12VHPWRケーブルを提供頂いた。リンクスダイレクトのみの販売で、価格は税込3,300円。スリーブタイプでなによりコネクタ数の省略は、ケーブルマネジメントに圧倒的有利だ |
搭載にあたっては3段分の拡張スロット金具を外し、GeForce RTX 4090 Founders Editionを挿入。ハンドスクリュー3本を使い、シャーシ側に固定を行う。占有スロット数が多いだけに懸念された”建て付け”については、どこかにイヤなテンションが掛かることもなく、思いの外スムーズに固定ができた。恐らくマザーボード側拡張スロットと拡張スロット金具が正確に90°を作り出している事によるもので、Performance 1 FTの工作精度の高さを感じる部分でもあった。
これらは非常に重要で、公差の範囲と片付けられると、ハイエンドクラスのグラフィックスカードがきちんと収まらない事がある。マザーボード側の反りなどの影響はゼロでは無いものの、PCケース側の精度によるところが大きいため、”丁寧な製造か否か”を把握できるひとつのファクターとも言える。
標準装備品Storm T3 140mm PWM FANまでの距離は約90mm。まだまだ余裕がある事が分かる |
Antecとしては実に8年振りとなる新作フルタワーPCケース。Performanceシリーズは静音志向のPCケースから、高エアフローの冷却重視PCケースへ徐々にシフトし、自作PC市場のトレンドに合わせた進化を続けてきた。
Performance 1 FTは、両サイドに強化ガラスを採用したことで得意とする二層構造の防音シートが使えない。これまで培ってきた手法が反映できないことで当初「半ばAntecらしからぬPCケースになった」と懸念したものの、検証を終えたところで「これはこれでアリ」だと思えるようになった。
自らの考えを改める必要に気付かされたのは、市場が以前ほど「静音」を求めていないこと。やや誤解を招く可能性があるが、「静音」である必要が無いのではない。構成パーツの進化や負荷状態によって騒音源のひとつとなる冷却ファンの回転が、より正確に可変(あるいは停止)し、加えて冷却の主役が水冷になった事で、「騒音問題」が以前ほどの悩みの種として筆頭に上がらなくなっている。つまりPCケースにとって「静音」は最も魅力的なキーワードでは既に無くなった。
そしてイマドキの市場にマッチしたPerformance 1 FT最大のアピールは、やはりフルタワーPCケースであること。”永遠の曖昧”であるフルタワーPCケースの定義について、以前はオープンベイの数やATX規格以上のマザーボードが搭載できる事など、半ば独自の規定によるものだった。それは今も変わらないが、外観はミドルタワーPCケース風のPerformance 1 FTは、フロントパネル裏手に420mmサイズのラジエーターが無理なく搭載できる。これは最大の強みであり、圧倒的に選択肢は少ないものの、確かにある需要に応えた設計は秋葉原のPCパーツショップから、売りやすさのファクターのひとつとして歓迎されているという。
8年前の「P380」とはまるでコンセプトが異なる新作・Performance 1 FT。長く売れて行く予感がする”フルタワーPCケース”だった。
協力Antec
株式会社リンクスインターナショナル