エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.1086
2021.12.16 更新
文:編集部 絵踏 一/撮影:松枝 清顕
「Z690 Taichi」の下半分を覆うカバーと一体化する形で、3基のM.2スロットすべてに冷却用のヒートシンクが搭載されている。発熱の大きなNVMe M.2 SSDのパフォーマンスを引き出すには、徹底した冷却対策が必須。ここではNVMe M.2 SSDを問題なく冷却できているか、M.2専用ヒートシンクの効果をチェックしていこう。
検証にあたっては、PCI-Express4.0(x4)に対応するCFD「PG4VNZ」シリーズの1TBモデル「CSSD-M2M1TPG4VNZ」を搭載。ベンチマークテスト「CrystalDiskMark 8.0.4」を使用し、データサイズ64GiB、テスト回数9回という重い負荷をかけ、3連続でテストを実行した際の転送速度および温度を確認する。
CrystalDiskMark 8.0.4(ヒートシンクあり) |
「CSSD-M2M1TPG4VNZ」のスペックは、シーケンシャル読込7,000MB/sec、同書込5,500MB/sec、ランダム読込350,000 IOPS、同書込700,000 IOPS。まず「CrystalDiskMark 8.0.4」の結果を見ていくと、データサイズの影響でややランダム性能に影響が出ているものの、これは以前の詳細レビューでも判明している通りSSDの特性によるものだ。それ以外は軒並み公称スペックと同等かそれ以上、グラフ波形にもまったく乱れがなく、安定したパフォーマンスを発揮している。
高負荷時の温度も最大66℃止まり。「CSSD-M2M1TPG4VNZ」のように、サーマルスロットリングのしきい値(60℃台後半から70℃程度)が低めに設定されているSSDでも、その性能をしっかりと引き出せている。
CrystalDiskMark 8.0.4(ヒートシンクなし) |
続いて参考までにヒートシンクなしの状態を見ていこう。「CrystalDiskMark 8.0.4」のスコア自体が大幅に低下しており、ヒートシンクの有無によるパフォーマンスへの影響は明らかだ。ランダム読込性能のみ健闘しているようにも見えるが、連続テストのグラフからは、それが一瞬だけであることが分かる。
SSDのコントローラ温度も70℃を余裕で超過。サーマルスロットリングが発生し、性能を落とすことで温度上昇を抑えている。アイドル時の時点でもやや高めの温度をマークしており、SSDの寿命にも影響があるはずだ。
ヒートシンクあり:アイドル時 | ヒートシンクあり:高負荷時 |
ヒートシンクなし:アイドル時 | ヒートシンクなし:高負荷時 |
また、動作中の様子をサーモグラフィで確認すると、ヒートシンクを装着することでかなり効率よく冷却できていることが見て取れる。ヒートシンクなしの状態では表面温度が80℃以上に達しており、パフォーマンスや耐久性に影響が出るのは当然だ。十分な冷却性能を備えたヒートシンクが全スロットに付いている「Z690 Taichi」なら、安心してNVMe M.2 SSDを扱えるだろう。
マックスのパフォーマンスを長時間維持できるようになった第12世代Intel Coreプロセッサ、特に最上位であるCore i9-12900Kの持つ特性は、クーラーとマザーボードにとって大きな課題になっている。冷却がボトルネックにならなければ、より高いクロックを引き出せる反面、そのシチュエーションが長く続けばマザーボードの電源回路には大きな負荷がかかる。新世代になって、各メーカーが電源周りの増強に躍起になっている理由の一つだ。
「Z690 Taichi」も合計20フェーズまで電源回路をスケールアップさせ、冷却機構もそれに見合う装備を用意。ヒートパイプで連結したヒートシンクに標準で冷却ファンを内蔵するほか、オプションでさらにファンを増設できる(しかもより大口径なファンまで)というアプローチは、いかにも自作PCらしい解決策だ。こうした装備は前世代の「Z590 Taichi」から引き続き採用された装備だが、第12世代Intel Coreプロセッサの特性にうまくマッチした要素と言えるだろう。
そのほか、クリエイターにとっても嬉しいデュアルThunderbolt 4ポートや印象的なギアの回転ギミックに至るまで、前世代の「Z590 Taichi」から受け継がれたものは多い。ユーザーにとって嬉しい機能をそのままに、DDR5やPCI-Express5.0対応といった新世代の機能を追加した正統進化のフラッグシップモデル。それが「Z690 Taichi」というわけだ。
その一方であらためてスペックを見てみると、PCI-Express5.0対応のM.2スロットは実装を見送るなど、必ずしも“新機能全部盛り”にはなっていない。いまだ製品が存在しない規格であり、実用性重視であえて省略された格好だ。そのおかげもあってか、各社とも10万円オーバーが当たり前なフラッグシップモデルの中では、「Z690 Taichi」はまだしも手頃な部類に入る。さすがにコストパフォーマンスを云々するクラスの製品ではないものの、堅実な設計と高水準でバランスがとれた機能に心惹かれるユーザーは多いはずだ。
協力:ASRock Incorporation