エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.1205
2022.10.18 更新
文:撮影・編集部 松枝 清顕
2022年10月6日(現地時間)に発表された新製品「NA-TPG1」の正式名称は、「NA-STPG1 thermal paste guard and cleaning set」(以下「NA-STPG1」)。冒頭説明した通り、今回はCPUクーラーや冷却ファンのような”直接的冷却機器”ではなく、製品PRODUCTSの中ではTHERMAL COMPOUNDに分類されている。NA-STPG1とは、どんなアイテムか。
オーストリアの首都・ウィーンに拠点を置くNoctuaは、言わずと知れた老舗の冷却機器専門メーカー。音楽の都にPCパーツメーカーとはやや場違いだが、同社の頭脳であり通称・プロフェッサーとして本誌ではお馴染みのJakob Dellinger氏は、技術屋というよりも風貌は芸術家のそれだが、冷却機器に関する飽くなき探究心に一切の妥協はない。特に製品開発に掛ける時間は膨大で、他のメーカーに比べて製品リリースのスパンが長い点が、それを裏付けている。しかし今回取り上げるNA-TPG1は、機械的なテストが不要なアイテムである事が1番の理由とは言え、異例の早さで市場にリリースされた。
NA-STPG1 thermal paste guard and cleaning set |
本題に入ろう。NA-TPG1は、2022年9月30日19:00より国内でも販売がスタートした、AMD Ryzen 7000シリーズ向けのサーマルペーストガード。このアイテムに意味を持たせているのが、Ryzen 7000シリーズの特徴的なカタチにある。
Ryzen 7000シリーズの概要やパフォーマンスはこちらの検証記事に詳しいが、最新アーキテクチャ「Zen 4」を採用するメインストリーム向けCPUは、従来のPGAタイプからLGAタイプに変更。これに伴い、ヒートスプレッダが特殊なデザインに生まれ変わった。
ヒートスプレッダの高さやサイズはSocket AM4とほぼ同等になるように設計されている(検証記事)というが、このヒートスプレッダ形状に度肝を抜かれた自作派は少なくないだろう |
何もかも新しいRyzen 7000シリーズへの注目度は高く、秋葉原の主要PCパーツショップからも期待の声が多く聞こえた。一方で特殊デザインのヒートスプレッダに対しては、発売前よりグリスの塗りすぎによる”横漏れ”を懸念する声が多数あり、ある販売店スタッフからは「サーマルグリスではなく熱伝導シートが売れるかもしれない」という意見も聞かれた。どうやらカットアウトされた新型ヒートスプレッダ形状については、あまり評判が良くなさそうだ。
そして10月6日に発表されたNA-TPG1は、特殊デザインのヒートスプレッダに被せる事で、グリスの横漏れと側面の蓄積を防止するのが目的のアイテム。熱に強いポリカーボネート素材は、ヒートスプレッダ形状にカット。ソケットに装着した状態で上から被せ、CPUクーラーの間に挟んで使用する。カットアウト通りに正確にくり抜かれた透明なプレートは「シンプルかつ非常に効果的なツール」(Noctua)とされる。
なおこの度の発表に合わせ、直接Jakob氏に話を聞いた。要約すると、Ryzen 7000シリーズのパフォーマンスを高く評価。気になる発熱対策についても、既存のNoctua製ハイエンドCPUクーラーで非常に良い結果も出ているとのこと。具体的には「熱流束密度を高め、動的にクロックを引き上げるのは簡単ではありません。しかし、NoctuaのハイエンドCPUクーラーなら、約200Wの連続する熱負荷に対応し、AMDが定義する瞬間的な負荷でも最大ブーストクロックに達する、良好な結果が得られました」と話す。
Noctuaの通称プロフェッサー・Jakob Dellinger氏。画像は2017年開催「COMPUTEX TAIPEI」取材時のものだから、ご参考まで |
一方でヒートスプレッダの形状には少々難ありといった印象で、カットアウト側面にサーマルペースト(グリス)が蓄積する事を懸念。開発に至る経緯を語ってくれた。
なおプレスリリースにおいて、Noctua CEOのRoland Mossig氏も同様に「ヒートスプレッダ側面にある切り欠きにサーマルペーストが蓄積することを懸念」し、さらに「取り除く事が困難」と言及。NA-TPG1がこれを解決するツールであることをアピールしている。
ちなみに2012年12月に検証を行っているロープロファイルCPUクーラー「NH-L9a」でも、Ryzen 9 7950Xに対して約130Wの連続する負荷に耐えることができたという |
ともあれ、編集部に届けられたプレスサンプルを手にしてみよう。ウィーンからEMSで届けられた評価サンプルは、通常の製品版パッケージではなく、PRESS SAMPLEとプリントされたもの。後に紹介する製品版とは異なり、NA-TPG1単体で3枚が同梱されていた。
日本で言うところのポチ袋(約70mm角)に3枚の評価サンプルが同封され、「PRESS SAMPLE」と記されたシールが貼り付けられていた。製品版のような付属品は一切ナシ |
真横から見たRyzen 7000シリーズのヒートスプレッダ。特徴的なカットはもとより、空間がある点もグリスの横漏れが懸念される要因のひとつとなっている |
編集部にある検証用サンプル。表面はキレイだが横から角部を観察すると、すでに拭き残しのグリスが蓄積されていた |