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エルミタ的「一点突破」 CPUクーラー編 Vol.14 「NH-D14」に見るNoctuaの確固たるCPUクーラー戦略
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「NH-D14」ヒートシンク各部の温度計測
Noctua「NH-D14」テストの最後はヒートシンク各ポイントの温度計測を行う。ここではCPUコアベース部裏を含め合計29ヶ所とし、「OCCT 3.1.0」Priority HIGH設定20分経過時を目安に放射温度計で計測している。
ヒートシンク各部の温度計測
縦軸:計測ポイント 横軸=温度(℃)
計測ポイントが多く、たいへん見づらいグラフとなって恐縮だが、そのまま掲載する事をご了承頂きたい。
このテスト結果を見ると、一番温度が高いポイントは定格時の(7)36.2℃で、次は(8)の30.7℃だった。その対角にある(5)24.4℃と(6)23.0℃は比較的低い。これは恐らくマザーボード上に搭載される16+2フェーズの「DIGI+VRM」の電源回路からの発熱による影響が出ているものと考えられる。
なおコア接触部の受熱ベース部裏(29)は、定格時で27.4℃、減速ケーブル使用時で28.7℃だった。
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HDT CPUクーラーを非HDT化した場合
〜究極の蛇足テスト〜
ここでは我ながら蛇足気味と思えてしまうテストを敢えて実行してみたい。
改めて確認しておくと、本稿の主題はNoctuaがヒートパイプをCPUに直接触させるHDT(ヒートパイプ・ダイレクトタッチ)を積極的に採用しないというSTAFFの言葉から始まっている。従来の受熱ベース部内にヒートパイプを貫通させるCPUクーラーのアッパーモデルとして編集部に届けられた「NH-D14」は、見た目通りの良好なパフォーマンスである事は十分に分かった。しかしこのテストでは素朴な疑問として「HDTと非HDTはどちらにアドバンテージがあるのだろうか」という問いにはまったく答えていない。
非HDTの「NH-D14」のベース部を削ってHDT化させてテストする等、そんな無茶はできっこない。そこで逆転の発想とばかりに考えたのがHDTタイプのCPUクーラーを非HDTにしてしまおうという試みだ。
実験というにはかなり精度を欠くレベルである事は重々承知の上、物は試しにテストをしてみることにした。
このテストには編集部の在庫として眠っていたCooler Masterのサイドフロー型CPUクーラー
「Hyper TX3」(型番:RR-910-HTX3-GP)
をチョイス。こんなテストに駆り出されるとはいい迷惑だとは思いつつ、「Hyper TX3」にはぐっと堪えて頂こうと思う次第。
Cooler Master
「Hyper TX3」(RR-910-HTX3-GP)
実勢価格税込2,500〜3,000円前後
95×51×139mm/470g
ファン92×92×25mm
800〜2800rpm(PWM)
15.7〜54.8CFM/17〜35dBA
製品情報(Cooler Master)
HDTを非HDTにする方法は、受熱ベース部に3mm厚のアルミニウム板を挟み込むという単純な方法をとった。こうする事で、CPUとヒートパイプは直接触状態では無くなり、簡易非HDT状態は再現できる。
念のためお断りしておくと、3mm厚のアルミニウム板を挟み込む事で、プッシュピン(ファスナー)にはかなりのテンションが掛かってしまうため、樹脂のツメが負けて欠けてしまう可能性が高い。実際にマザーボードに装着したところ、プッシュピンもそれを支える金具もぱんぱんな状態になったため、決してお勧めできるテストではない。
このテストに起用されたのは編集部在庫Cooler MasterのHDT型サイドフローCPUクーラー「Hyper TX3」(実勢価格税込2,500〜3,000円)。まったくもっていい迷惑だ
野方電機工業(東京都中野区)に依頼して作成したアルミプレート。大きさは30×30×厚さ3mm
アルミプレートをグリスで密着させ、HDTを非HDT化させた状態。もちろんこの面とCPU間にもグリスを塗布する事は言うまでもない
テスト環境はNoctua「NH-D14」と同様。アイドル時と「OCCT 3.1.0」Priority HIGH設定20分経過時のCPU温度を計測してみる
Cooler Mster「Hyper TX3」温度テスト
計測日2011年1月28日 室内温度19.8℃
ファン回転数:
ノーマル時1081rpm(アイドル)/2347rpm(高負荷時)
アルミプレート使用時:1099rpm(アイドル)/2041rpm(高負荷時)
「NH-D14」と同じ手順でテストを行った結果、ノーマル状態(HDT)とアルミプレート使用時(非HDT)ではほとんど差が出なかった。数字上、非HDT化させた方がアイドル時/高負荷時共にマイナス1℃となっているが、これは誤差の範囲として考えた方が良いレベルで、明確に差が出ているとは決して言えない。しかし、
いずれの状態でもさほど変わらない結果
をどう解釈すれば良いのか。疑問の解決に近づくべく行ったテストだったが、HDTはさほど意味をなさないと言い切るには尚早と言わざるを得ず、モヤモヤ感を払拭するには至らなかった。
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NoctuaがHDTを選択しない理由
〜Jakob Dellinger氏が語る〜
「NH-D14」の冷却能力の高さは実証された。非HDTでもこれだけの冷却が行えれば、確かにHDTは必要が無いのかもしれない。ただし裏を返せば、HDTにする事でさらに冷却能力が向上するのではないだろうか。残念ながらこれ以上それを明らかにする手だてはない。
一方、明確に「HDTは現時点採用しない」と言い切るNoctuaはそれに対する納得の行く答えを持ち合わせているのだろうか。そこで最後にNoctuaのJakob Dellinger氏にその根拠を直接聞いてみる事にした。
STAFFと議論中のJakob Dellinger氏(画像右)
編集部)
「COMPUTEX TAIPEI 2010」から半年を経過したところで、NoctuaのHDTに対する考え方に変わりはありませんか?
Noctua)
「基本的な考えの違いはありません。私たちはHDTと非HDTのテストを繰り返し、そのアドバンテージについて一定の答えを持っています。
Noctuaが採用する非HDTは、銅製受熱ベースにヒートパイプを接触させ、CPUコアからの受熱とヒートパイプの熱移動の流れを構成させていますが、ヒートパイプと受熱ベースの接合には非常に高い技術とコストが要求されます。(編集部注※両者の接合にはロウ付けや半田付け等の方法が用いられており、この密着度が低い場合は、十分にヒートパイプの役割を果たす事ができない)
一方、HDTはその作業が無い事で、製造コストは安く済ませる事ができますが、
現状では非HDTのアドバンテージは高く、HDTの冷却能力はまだ追いつけていない
と考えています。
編集部)
2011年の「COMPUTEX」に向けて、今年も新しい製品が準備されていると思いますが、これも非HDTという事でしょうか。
Noctua)
はい。「COMPUTEX TAIPEI 2011」に向けて準備が進められているのは、ロープロファイルデザインの高冷却CPUクーラーです。
高さは70mm程度で、比較的低いTDPのプロセッサがチョイスされるHTPC向けの製品を考えています。このプロダクトがターゲットとするユーザーには高い興味を持って頂けるモデルになると思います。
編集部注※この会話には無い事前のやりとりにおいて、HDTタイプのCPUクーラーは全く念頭に無いと考えている訳ではなく、非HDTを超える冷却能力が出せた場合、従来のHDTと違った製造工程を踏んだモデルを投入するかもしれないとも発言している。つまりNoctuaからHDTタイプのモデルがリリースされる可能性はゼロではない。
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総評 改めてCPUクーラーの奥深さを教えてくれたNoctua
今回の「一点突破」CPUクーラー編は、NoctuaのCPUクーラーに対するポリシーを常に頭のどこかに置きながらエルミタなりにテストを行ってみたがどんな感想を抱かれただろうか。
思えばHDTタイプのCPUクーラーが誕生した時、筆者は「なんて効率のよい方法なのだ」と感心し、全てのCPUクーラーがこの方法を採用する方向に動くだろうと考えた。
確かに採用モデルは増え、正確な数字は把握していないものの、現行CPUクーラーの半数以上はHDTタイプとなり、敢えてこのタイプを選ぶユーザーは非常に多いのではないかと思う。しかしNoctuaは昨年の「COMPUTEX TAIPEI 2010」のブースで明確に「HDTよりも非HDTの方が冷える」と言い切っている。もうこれしか無いとまで思わせたHDTをやや否定的に考えるNoctuaの言葉は、これまでの認識と市場の流れとは逆を行くものであり、筆者を半年の間悩ませる事になってしまった。
サンプルとして手元に届けられた「NH-D14」はデュアルファンと大型ヒートシンクの組み合わせにより、高いエアフローで冷却させようとするハイエンド志向のモデルである事は誰の目にも明らかだが、例の減速ケーブルでファン回転数を落とし、静音仕様で稼働させても十分な冷却能力を得ることができた。ここがNoctuaの言う非HDTでの実力の高さなのかもしれない。
さて本稿の締めくくりは、Noctuaに対し最後の質問をぶつけてみる。これはHDTと非HDTに関する半年間の悩みよりも遙かに長い間、筆者が気になっていた大きな疑問だ。
筆者)
「NoctuaのWebサイトに登場する女性は誰ですか?」
Noctua)
「彼女のidentityを明らかにする事はできませんが(笑)、彼女はモデルです。Noctuaのコーポレートカラーであるブラウンとベージュのトーンは、市場で多く見かける鮮やかなカラーリングとは対照的に落ち着きと静謐を連想させるために選ばれました。彼女の持つ雰囲気は、そのイメージに合うもので、私たちが製品で成し遂げようとしている信頼性の高さも感じる事ができるのではないでしょうか」
「音楽の都」と称されるウィーンにNoctuaの拠点はある。PCパーツとは少々無縁という印象だが、ハプスブルク家の血を引く(定かではないが)彼らは、確固たるポリシーを製品に詰め込み、これからもNoctuaらしい冷却機器を生み出す事だろう。
協力:RASCOM Computerdistribution Ges.m.b.H
© GDM Corporation All Rights Reserved.
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・外形寸法 D130×W140×H160mm
・重量1240g
・素材 銅製ベース/ヒートパイプ(ニッケルコーティング) アルミニウム製放熱フィン
・ファン
120mm「NF-P12」1300rpm/19.8dBA
(U.L.N.A.使用時)900rpm/12.6dBA
140mm「NF-P14」1200rpm/19.6dBA
(U.L.N.A.使用時)900rpm/13.2dBA
・製品保証 6年間(メーカー保証)
・
製品情報(Noctua)
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