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|「Accelero S1 PLUS」の冷却能力検証
「Accelero S1 PLUS」の冷却能力を検証してみよう。これまで数種類のARCTIC汎用VGAクーラーに触れているが、パッシブタイプのモデルをじっくり計測するのはこれが初めて。見栄えのする大型ヒートシンクは、どれほどのポテンシャルを持ち合わせているのか、たいへん興味深い。
なおテスト機材構成は以下表にまとめた通り。これまでの「一点突破」同様、PCケースには入れず、Cooler Master「Test Bench V1.0」によるバラック状態で計測を行った。なお計測日の室内温度は13.9℃で、暖房器具などは使用していない。
検証機材構成 |
CPU |
Intel Core i5-2500K
(Sandy Bridge/LGA1155/3.30GHz/TDP95W) |
マザーボード |
ASUSTeK「P8P67 DELUXE REV3.0」
(Intel P67 Express B3ステッピング) |
メモリ |
CORSAIR「CMZ8GX3M2A1600C8」
8GB(4GB×2枚)PC3-12800(DDR3-1600MHz) |
グラフィックスカード |
ASUSTeK「EAH6770 DC/2DI/1GD5」 |
HDD |
Western Digital「WD10EARS」 |
光学ドライブ |
LG「GH24NS50」 |
電源ユニット |
CORSAIR「CMPSU-850AXJP」
(850W/80PLUS GOLD) |
ベンチ台 |
Cooler Master「Test Bench V1.0」 |
OS |
Windows 7 Ultimate SP1 64bit |
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今回のテストには、グラフィックスカードに“リファレンスよりも20%も冷える”と謳うVGAクーラー「Direct CU」搭載のASUSTeK「EAH6770 DC/2DI/1GD5」(コアクロック850MHz/メモリクロック4000MHz/GDDR5 1GB)を用意した。
φ8mmヒートパイプ2本をGPUに直接触させるダイレクトタッチ式を採用する「Direct CU」は、2Slotデザインのオリジナルモデル。オーバークロック性能と安定性の向上を実現し、高い静音性をも特徴とする。なお搭載されるファンは防塵ファン(ダストプルーフファン)を採用。従来品に比べ、最大25%の長寿命を実現するという。
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「EAH6770 DC/2DI/1GD5」に「Accelero S1 PLUS」を搭載させると、このような雰囲気に。GPUがやや右側にレイアウトされていることから、基板から放熱フィンが大きくはみ出てしまった。ただし冷却性能に影響されるワケではないため、気にしない事にしよう |
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実際にPCI-Express2.0(x16)スロットに装着してみる。薄型ヒートシンクとは言え、受熱ベースとの距離により隣接スロットの一部にやや掛かってしまうため、2.5スロット占有と言ったところか |
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|果たして冷えるのか? 〜GPU温度を計測する〜
いよいよここからは、「Accelero S1 PLUS」の冷却能力をテストしてみたい。今回のテストはアイドル時と「3DMark 11」を用いた高負荷時でのGPU温度を、「GPU-Z v0.5.7」でモニタする。
さらにASUSTeK「EAH6770 DC/2DI/1GD5」のGPU温度も合わせて計測してみよう。ファン付きとファンレスを比較するのは当然ながらナンセンスであるため、あくまで参考とし、加えて“リファレンスよりも20%も冷える”「Direct CU」の冷却能力も知っておこうというのが、このセッションの目論見でもある。
「Accelero S1 PLUS」搭載のアイドル時は40.5℃、高負荷時で67.0℃となり、26.5℃の上昇となった。
アイドル時はまずまずだが、さすがに高負荷時になると70℃近い数値にまで達してしまう。今回のテストは、ベンチ台を用いたむき出し状態だが、ボトム部から吸気ファンのエアフローが送り込めるようなPCケースに収めた場合、もう少し温度は下がるのではないだろうか。
ちなみにテスト時の室内温度は13.9℃だが、夏場での常用で、どこまで“耐える事ができるのか”は未知数。是非もう一度テストを行ってみたい。
なお「Direct CU」は、アイドル時24.5℃に対し、高負荷時で51.0℃となり、奇しくも「Accelero S1 PLUS」同様、26.5℃の上昇という結果だった。アイドル時はさすがに秀逸。高負荷時でも47〜49℃あたりをうろうろし、一時的に51.0℃に達するといった状態で、ASUSTeKの売り文句通り、冷却能力の高さを実感する事ができた。
|放熱フィンのポイント別温度テスト
次に非接触型温度計を用いて、「Accelero S1 PLUS」放熱フィンのポイント別温度計測を行ってみたい。
パッシブタイプの「Accelero S1 PLUS」では、ヒートシンク全体に効率良く熱を拡散させ、高負荷状態で高温に達するGPUを安定動作させなければならない。つまり通常のファン付きVGAクーラーよりも放熱フィンへの全体拡散が重要となってくる。
今回の計測ポイントは合計5箇所。特に(3)のポイントはGPUに最も近い場所だけに、一番温度が高い状態になるのではないだろうか。
なお高負荷状態は前項同様、「3DMark 11」を使用し、その最大値をピックアップしている。
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計測箇所は全部で5ポイント。テスト開始前の時点では、当然(3)のGPU付近が最も高い温度に上昇するものと想像できる |
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計測ポイント |
@ |
A |
B |
C |
D |
アイドル時 |
22.3 |
23.1 |
34.1 |
33.1 |
26.5 |
3DMark 11実行時 |
30.9 |
27.1 |
45.1 |
46.1 |
32.9 |
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テスト結果を見ていくと、アイドル時で一番温度が高いポイントはGPUコアに最も近い(3)の34.1℃で、最小の(1)22.3℃とは11.8℃もの差が出ている。次に「3DMark 11」実行時での最大ポイントは(4)の46.1℃、最小は(2)の27.1℃となり、その差は19.0℃だった。
この結果から、GPUに近い(3)(4)はヒートシンク全体では温度が高く、GPUから遠い(1)(2)は温度が低い事が明確に表れた。
ここまでは想像通りだとして、やや気になるのは、両者の差が最大19.0℃もの違いがある点だ。
|肩身の狭い、汎用パッシブVGAクーラーの存在
ここまで「Accelero S1 PLUS」を延べ3日に渡り、テストを行ってきた。自作ユーザーにとって「ファンレス」というキーワードは、たいへん魅力的であり、静音PCを自作するにあたっては、誰しも導入を検討するだろう。
どうせならアクティブ化キット「S1 PLUS Turbo Module」を使わずに運用したいと考えるのは人情。そこで筆者も価格が手頃なAMD Radeon HD 6770をチョイスしたワケだが、テスト結果と短期間ながら常用してみた感想は、“まぁ使える”といったところだった。やや浮かないこの物言いになってしまったのは、ASUSTeK「EAH6770 DC/2DI/1GD5」に搭載されている「Direct CU」の存在が大きい。
パッシブとアクティブの両者は、その違いからどうしても温度差に開きが出てしまうのは致し方ない。しかしパッシブを選択する一番の理由である「静音化」について言えば、「Direct CU」もかなり静音で運用できてしまうからややこしい。GPU温度を犠牲にしてファンレス化させる意味が、かなり弱くなってしまった感は否めないのだ。
本稿の主役ではないため、「Direct CU」の詳細にはあまり触れるべきではないと思うが、アイドル時での騒音値は32.4dBA/1133rpm(室内騒音値29.8dBA)、高負荷時ではそれぞれ34.2dBA/1200rpmは非常に静かだった(そして冷える)。
「Accelero S1 PLUS」搭載時の高負荷テストでは、手で触れないほどではないものの、できれば“触りたくない”状態になる放熱フィンに手をかざしながら、その存在意義に疑問を感じてしまう結果となった。
今回は「Direct CU」という強敵を相手にし、苦戦を強いられた「Accelero S1 PLUS」だったが、数多ある対応VGAで、どうしてもその動作音に耐えられないという場合には、有効な選択肢と言えるだろう。
ひと頃に比べ、VGAクーラーも進化している。汎用パッシブVGAクーラーの肩身は狭くなるばかりだが、世界屈指の冷却機器メーカーであるARCTICには、是非ラジコンやゲーム機などはホドホドにして、良い製品の登場に期待したい。 |
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機材協力:ARCTIC
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