エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.1020
2021.07.12 更新
文:池西 樹(検証)/文・撮影:松枝 清顕(解説)
販売が開始された「NH-P1」の概要を説明する前に、触れておかなければならないのが「COMPUTEX TAIPEI 2019」のNoctuaブースレポートだ。当時(2019年6月)、PROTOTYPEと記された名も無き「Fanless CPU cooler」は、紛れもなく「NH-P1」の原型で、見比べると僅かな違いでしかない。
「COMPUTEX TAIPEI 2019」のNoctuaブース。余談ながらNoctuaが示すPROTOTYPEの多くは、後に製品化されているので、油断がならない |
具体的には、見慣れたCPUクーラーとは異なる、明らかに厚い放熱フィン(アルミニウム製)の数が12枚(プロトタイプ)に対し13枚(製品版)に改良され、さらにヒートパイプ末端が突き出た面の、打ち抜かれた通気孔らしき穴の”ひさし”がカットされている点、そして穴の数等が挙げられる。製造方法など目に見えない部分でも恐らく改良されているはずで、「NH-P1」はこれまでのNoctua製CPUクーラー同様、長い開発期間と改良を重ねて製品化されている事は容易に想像ができる。
Intel Core i9-9900Kを完全ファンレス駆動させたデモ機。会期中、動作させたままでもフリーズしらずだったらしい |
さらに記事を読み返すと、プロトタイプではサポートTDPが120Wといった表記(説明)があるが、「NH-P1」では設置環境等複合的な要因から、明確な数値は開示されていない。この点については、使われ方によるところが大きく、対応としては正解だろう。
Noctua「NH-P1」 実勢価格税込約16,000円(2021年6月発売) 製品情報(Noctua) |
ここで多くの自作派から注目を集める「NH-P1」について、生みの親であり編集部とは古くから縁の深いNoctuaのプロフェッサーことJakob Dellinger氏に、プロトタイプと製品版の異なる点や、セールスポイントを聞いてみた。
Jakob Dellinger氏。ちなみにプロトタイプが展示された「COMPUTEX TAIPEI 2019」は、”おめでたい理由”により欠席。オンラインにより後日レクチャーを受けた |
「COMPUTEX TAIPEI 2019」で披露されたプロトタイプから、4つのポイントが改良されているという。
1つの目の重量について、見るからに肉厚のヒートシンクと全体サイズから、ヘビー級であろう事は想像ができた。しかし実際に数値を聞くと1.5kgもあったらしい。2014年5月に行ったNoctuaの巨大CPUクーラー「NH-D15」が重量1.32kgだけに、「NH-P1」のプロトタイプがどれほどのモノかが想像できるだろう。
そして2番目は、PCケースに収めたところのCPUクーラー有効スペースの確保だ。当初全高165mmだったところ、158mmまで低くした。多くのミドルタワーPCケースは、有効スペースが160mm近辺であることから、より汎用性を持たせた格好。そして3番目は、マザーボードのCPUソケット周辺にそびえ立つチップ用ヒートシンクの高さを考慮し、ソケット周辺にはみ出る部分のヒートシンクをかさ上げ。そして4番目にエアフローの効率化を目的に、放熱フィンの穴パターンが見直された。
このように、2019年時点のプロトタイプはさすがに重量オーバー気味とあって、2番目以降の改良により1.2kgへの軽量化(と言っても十分に重いが)が果たされている。
引き続き「NH-P1」のアピールしたいポイントを聞いた。開発に明け暮れ、製品化に向け改良を重ねてきたJakob氏にとって、「NH-P1」への思い入れはひとしおだろう。そんな生みの親が挙げたポイントは3つだ。
1つ目のゼロノイズは、製品の主たるコンセプトをそのまま表している。のちに解説する制限は多少あるものの、基本は冷却ファンを搭載しない状態でも高い冷却能力が最大の特徴。冷却ファンの回転数を落とした静音ではなく、あくまでゼロノイズでの運用に耐えられるよう、設計されている。
次にほこりの問題を挙げている。これは3つ目のアピールポイントに共通するところだが、電力で駆動させる可動部品が一切ないため、絶対に故障しない。PCケースですらスイッチ不良などの可能性は排除できないが、「NH-P1」は単にヒートシンクであって、仮にほこりが付着したところで機械的に壊れようがない。PCを構成する基幹部品としては異例のタフなパーツであると言えよう。